認知症になったら「人生終わり」と考える人の誤解 当事者や家族がより楽になる在り方を考えよう

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失敗しないと成功体験もありません。そして当事者から明るさが消えていく。先日パンを焼きながら隣室へテレビを消しに行き、すっかり忘れて焦がしてしまった。妻は「いいよ、また焼けばー」と。次からは目を離さずパンに集中する。あるいはちゃんと焼けるようトースターに工夫を施す。

家族が「いいよ、焼いてあげるから」では失敗体験のまま終わる。やってくれるのを待つ人になってしまう。本人の力を少しでも信じて、応援することが大事だと思います。

認知症の「当事者」になったら

──認知症と診断されたときのために、アドバイスはありますか?

まず病気をオープンにすること。大事なのは、「できること」「できないこと」「やりたいこと」をハッキリ伝えることです。お酒も注意されてないと伝えれば、じゃあ行こうと誘ってくれる。信用できる1人にまずは話してほしい。

それから当事者同士、仲間をつくる。地域で当事者同士が集まれる場は少しずつ増えています。認知症と診断されると「なぜ自分だけが」と落ち込みがち。でも同じ思いや経験をしている仲間がいることを知れば、気持ちはずいぶん楽になる。今、仙台で運転免許を考える集いを開いています。運転をやめた人、悩んでいる人、当事者同士とことん話し合ってもらう。実際に返納した人の経験談を聞くと、自分なりに考えて気持ちに整理がつく。それなら「家族に奪われた」感に駆られなくて済む。

認知症の私から見える社会 (丹野智文 著/講談社+α新書/880円/160ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

──当事者側から発信する機会は、徐々に増えつつありますか?

8年前なら認知症の人はしゃべれない、文字が書けないが通り相場で、人前で話すこと自体許されない空気があった。ネットなどで発言すると猛批判を浴びました。でも少しずつ変わってきて、当事者の話を聞こうという人が増えてきた。それで今回本も書けました。

2015年に開設した「おれんじドア」は当事者が当事者の相談に乗る場所。不安を抱えた1人から笑顔になってほしい。本人が元気になり笑顔になれば、家族は絶対楽になり笑顔になるから。当事者にとって家族がいちばん大切だからこそ、家族が楽にならないと。当事者が笑顔になれば、これまでのような偏見はなくなり、結果、それが社会を変えていくはずだと思っています。

中村 陽子 東洋経済 記者

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なかむら ようこ / Yoko Nakamura

『週刊東洋経済』編集部記者

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