そろそろ金を買ってもいい時期が近づいている 徐々に固まる下値、「売り材料」の出尽くしも

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直近の物価関連指標からも、インフレ圧力が高まっている兆候を容易に見て取れる。10月1日に発表された8月の個人消費価格指数(PCE)は前年比で4.26%の上昇だった。しかも変動の激しい食品とエネルギーを除いたコア指数は3.62%の上昇と、共に1991年以来の高い伸びを記録。これはFRBが目標としている2.0%を大幅に上回ったことは、言うまでもない。

一方、9月のISM指数でも、製造業の価格指数が前月の79.4から81.2、サービス指数の価格指数も75.4から77.5と再び上昇に転じたし、8日の雇用統計では時間当たり平均賃金の伸びも8月比で0.6%増と加速している。

13日の消費者物価指数は前年比で5.4%と2008年7月以来の高い伸びを記録した。さらに、NY原油先物価格は1バレル=83ドル台に乗せるなど、ここへきてエネルギー価格が上昇基調を一気に強めてきたことや、サプライチェーンの問題も解決に向かうどころか、一段と深刻になっている。こうした現状を見る限り、インフレ圧力はこの先も強まる可能性が高い。

FRBのジェローム・パウエル議長も、9月28日に開かれた上院銀行住宅都市委員会での証言で、経済の再生にともなって消費が増えるいっぽう、一部のセクターで供給面のボトルネックが生じていることが主な要因となる中で、高インフレ率が向こう数カ月間続くとの見通しを示した。夏まではインフレは一時的な要因によるものとの見方を執拗なまでに繰り返していたのだから、態度を一変させたことになる。

現在FRBは国債を月に800億ドル、住宅ローン担保証券(MBS)を400億ドル、合計1200億ドル新規に購入するという量的緩和策を行っているが、この債券購入をそれぞれ月100億ドル、50億ドルずつ購入額を減らしていき、来年半ばまでにテーパリングを終了、来年末までに利上げに転じる状況を整える必要に迫られる可能性が高まっている。FOMC直後から債券市場が敏感に反応、長期金利が上昇圧力を強めてきていることが、何よりもそれを物語っている。

金相場は、11月のFOMC前後に買いのチャンス到来か

前置きが長くなったが、こうした中で、金相場は下値を固めつつあるといえそうだ。FRBの早期利上げの可能性が高まり、米長期金利が上昇するという状況は、金にとって一番の弱気パターンだと言っても過言ではない。ドル高の進行も弱気に作用している。

ただ8月12日付のコラム「急落した金価格は今後も下落するのか」では「1トロイオンス=1600ドル台前半まで値を切り下げる展開になっても、何ら不思議ではない」と予想したが、実際の下値は1700ドル台前半でとどまっている。

安値圏が継続する局面は、中長期的に見て絶好の買い場となる可能性が高い。8月には7月雇用統計が強気のサプライズとなったことを受け、一時は1日で100ドル超の急落となるなど、金相場はインフレやテーパリング、早期利上げなどに対して、ほかの市場よりも敏感な反応を見せてきた。

だが、その分、こうした材料を相場にすべて織り込むのも、他の市場よりも早くなる可能性は高いと考える。一方で最近は株価の急落局面で金に買いが集まるなど、安全資産としての需要が復活、株式市場からの資金の逃避先としての認識が高まってきていることも見逃せない。

今後、もし株価が本格的な調整局面に入り、市場がパニック的な状態に陥るようなことになれば、金市場に安全資産としての買いが集まる中で相場が底値圏から本格的に浮上することも、十分に考えられる。現時点ではなお売り優勢の流れに逆らうべきではないだろうが、11月のFOMCでテーパリングの開始が正式決定されるのなら、その前後に当面の売り材料も出尽くしとなり、買いのチャンスが訪れることに期待したい。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

松本 英毅 NY在住コモディティトレーダー

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まつもと えいき / Eiki Matsumoto

1963年生まれ。音楽家活動のあとアメリカでコモディティートレードの専門家として活動。2004年にコメンテーターとしての活動を開始。現在、「よそうかい.com」代表取締役としてプロ投資家を対象に情報発信中。NYを拠点にアメリカ市場を幅広くウォッチ、原油を中心としたコモディティー市場全般に対する造詣が深い。毎日NY市場が開く前に配信されるデイリーストラテジーレポートでは、推奨トレードのシミュレーションが好結果を残しており、2018年にはそれを基にした商品ファンドを立ち上げ、自らも運用に当たる。ツイッター (@yosoukai) のほか、YouTubeチャンネルでも毎日精力的に情報を配信している。

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