アップルとEUの「児童ポルノ画像検出」の危うさ サイバー専門家が警告する監視社会への道

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ところが、この計画はプライバシー擁護派の間で騒動となった。デジタルプライバシーを侵食し、最終的には政治的な反対勢力などを追跡する道具として、この技術が権威主義的な政府に利用されることになるのではないかといった懸念が浮上したのである。

アップルは外国政府からそのような要求があっても拒否すると述べていたが、プライバシー擁護派からの反発を受けて児童ポルノ検出機能の導入を延期すると9月に発表。14日に発表された研究についてはコメントを控えている。

サイバーセキュリティーの専門家たちによると、研究はアップルが計画を発表する以前から始まっていた。専門家らはEUが公開した文書や昨年のEU当局者との会合から、EUの統治機関は児童ポルノ画像の検出だけでなく、組織犯罪の兆候やテロリストとのつながりを検知するために同様のプログラムを導入しようとしていると考えるようになった。

児童ポルノの摘発効果にも疑問符

専門家らは、EUで個人の写真のスキャンを可能にする提案が早ければ今年中になされる可能性があるとみている。

専門家グループの一員でもあるケンブリッジ大学のロス・アンダーソン教授(セキュリティーー工学)は、「国家の監視権限の拡大はまさに一線を越えつつある」ことから、EUに対し計画の危険性を知らせる目的で調査結果を公表したと話している。

専門家らは、こうした監視への懸念のほかにも、この技術は児童ポルノ画像の検出に効果的でないことが判明していると述べている。専門家らによれば、アップルが計画を発表してから数日とたたずして、画像データをわずかに加工することで検出を回避する方法が指摘されるようになっていたという。

専門家グループの別のメンバー、タフツ大学のスーザン・ランドー教授(サイバーセキュリティーーと政策)は「違法なことが行われているという十分な理由もなく個人の私的なデバイスのスキャンを許可するのは、はなはだしく危険だ」と語る。「ビジネス、国家の安全、公共の安全、プライバシーにとって危険なことだ」

(執筆:Kellen Browning記者)
(C)2021 The New York Times Company

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