JR通勤定期「私鉄より高い割引率」が抱える大問題 これまで財布に優しかったが、今後は値上げ?

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『平成28年版 都市交通年報』(運輸総合研究所、2020年3月)には10km乗車したときの1カ月通勤定期運賃の割引率が掲載されている。同書で最新の数値である2014(平成26)年度の割引率はJR東日本・JR東海・JR西日本の本州3社の幹線では49.3%であったのに対し、大手民鉄の東武鉄道は32.4%、名古屋鉄道は42.1%、近畿日本鉄道は37.5%、大手民鉄の一員でもあり、地下鉄事業者でもある東京地下鉄は36.2%であった。名古屋鉄道の割引率がJR3社に近いが、それでも差は7.2ポイントと大きい。いま挙げたなかで最も割引率の低い東武鉄道と比較すると16.9ポイントもの差が開いている。

実は大手民鉄も、そして東京地下鉄の前身の帝都高速度交通営団も創業時から一貫して通勤定期運賃の割引率がJR、そして前身の国鉄と比べて低かったのではない。『平成28年版 都市交通年報』には1974(昭和49)年度の数値も載っており、国鉄の50.0%に対し、東武鉄道は52.9%、名古屋鉄道は40.8%、近畿日本鉄道は46.1%、帝都高速度交通営団は53.3%であった。名古屋鉄道を除き、国鉄と同水準か、かえって割引率が大きいところさえ存在したのだ。

かつての東京メトロは赤字体質だった

通勤定期運賃の割引率の高さは物価の上昇率を抑えようとする行政側、当時の運輸省の低運賃政策によるもので、決して国鉄、大手民鉄が望んだものではない。いまでは信じられない話かもしれないが、帝都高速度交通営団は低運賃制度に加え、高度経済成長期に多数の路線を建設したこともあって長年にわたって赤字体質であった。

ところが、1973(昭和48)年の石油ショック後の電力費の高騰によって大手民鉄の鉄軌道事業部門は一気に経営危機に陥り、運輸省も大手民鉄側の要求を認めざるをえなくなる。長年の課題であった通勤定期運賃の割引率は段階的に引き下げられ、1978(昭和53)年度には東武鉄道が39.0%、名古屋鉄道は36.7%、近畿日本鉄道は39.2%、帝都高速度交通営団は39.4%と現在並みの水準となった。逆に言うと、このころに通勤定期運賃の割引率の引き下げが認められなかったら、今日大手民鉄各社は存在していなかったであろう。

国鉄も1970年代以降になって経営破綻状態に陥り、通勤定期運賃の割引率も多少は引き下げられたが、大手民鉄と比べて不十分であった。理由は示されていないものの容易に推察できる。定期外旅客1人当たりの営業利益は大手民鉄をはるかに上回る水準であるからだ。しかも、2018年度の時点でもその金額はJR北海道が346円、JR四国が196円と、失礼な言い方ながら両社でさえ大手民鉄の167円を上回っている。

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