JR通勤定期「私鉄より高い割引率」が抱える大問題 これまで財布に優しかったが、今後は値上げ?

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定期外旅客重視の経営姿勢は、JR6社が大手民鉄に比べれば広大な路線網をもち、旅客から乗車券といった運賃のほか、各種料金を徴収しているからこそ実現できた。だが、コロナ禍で長距離旅客が姿を消し、復活の兆しどころかコロナ禍前の状況に戻らないとさえ予測する関係者もいるほどだ。

となれば、JR6社全体で輸送人員の60.9%(2018年度)を占める定期旅客からも営業利益を上げる方策を考えなくてはならない。JR東日本やJR西日本は時間帯別運賃の導入を検討しているとのことで、現実的にはラッシュ時に乗車可能な通勤定期運賃は現行よりも引き上げ、つまり割引率の引き下げが実施されるとみられる。

鉄軌道事業者の運賃は、営業費に事業報酬を加えた総括原価の範囲内で国土交通大臣の認可が得られる。そして、JR旅客会社や大手民鉄、地下鉄の場合、営業費はそれぞれのグループ内で国土交通省の定めた数式に当てはめたヤードスティック方式の基準コストを用いることとなっていて、実際の金額が基準コストを上回っていても総括原価には反映されないのだ。しかも、総括原価の算定期間は3カ年度で、コロナ禍が始まってまだ1カ年度分しか経過していない場合、運賃改定の申請すらできない。けれども、これではコロナ禍が収まる前にJR6社は虫の息となり、何社かは消滅の危機にすら瀕する。

国土交通省もそうした事情は理解しているらしい。通勤定期運賃の割引率の引き下げには柔軟な態度で臨むと言われる。というよりも、そもそも定期運賃の割引率には特に規定がないので、極端に言えば普通乗車券と同じ金額であってもよい。

収支均衡する割引率を試算してみると…

以上の前提で、果たしてJR6社の通勤定期運賃の割引率は何パーセントであれば営業収支が均衡するのか試算してみた。試算に当たり、まずは通勤定期旅客の平均乗車キロを旅客人キロ÷輸送人員で求め、その営業キロでの幹線の普通運賃から現行の割引率を求めた。仮に通勤定期運賃を旅客1人当たりの営業費にまで引き上げたとして、その営業キロでの幹線の普通運賃に対する割引率が営業収支を均衡させたときのものとなる。

常識的な割引率となったのは現行の59.1%から50.6%へと引き下げればよいJR東日本だけ。JR西日本は4.8%、JR九州は5.8%と回数乗車券をも下回る割引率となった。

割引率が求められただけでもまだよいほうだ。JR北海道、JR東海、JR四国の3社は、通勤定期旅客の平均乗車キロでの幹線の普通運賃ですら営業損失が出ていて割引率を算定できない。

通勤定期運賃に限らず、鉄道会社の営業収支を均衡させる手法として運賃の改定、つまり値上げを提案すると必ず反発を受ける。仮に鉄道が公共財であって低運賃政策を続けるべきだとしても、その分受益者となる沿線の住民は納税など何らかの仕組みで負担しなければならない。となると、現実にはJR6社の通勤定期運賃の過大な割引率の引き下げに応じるほうが現実的となる。40年以上前に大手民鉄が通ってきた道を、昨今のコロナ禍でJR6社も無視することができなくなった。早く気づくべきであったが、いまからでも遅くはない。

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