JR通勤定期「私鉄より高い割引率」が抱える大問題 これまで財布に優しかったが、今後は値上げ?
以上から2021年4~5月の輸送人員の動向をまとめてみよう。コロナ禍ながら通勤・通学のために定期乗車券を利用する旅客の客足はJR6社、大手民鉄とも戻りつつあると言える。一方で、観光、商用、その他の用件で普通乗車券などを利用する旅客の客足の戻りは鈍く、しかもその傾向はJR6社のほうがより深刻だ。そして、定期外の旅客の客足が戻らないことがJR6社の今後にも暗い影を落としている。
2018年度の「鉄道統計年報」には定期旅客、定期外旅客それぞれの輸送人員、旅客運輸収入が公表されているので、定期または定期外旅客1人当たりの旅客運輸収入が推計できる。そして営業費は旅客別には発表されていないので、旅客全体の数値を基に旅客1人当たりの営業費を求め、定期または定期外旅客1人当たりの営業損益を算出した。
JR6社の定期旅客の営業収支は明らかに悪い。1人当たり244円の営業損失となっている。その内訳は通勤定期は233円、通学定期は283円のともに営業損失。割引率の大きな通学定期旅客はやむをえないとしても、通勤定期旅客ですら営業利益を計上していない。
輸送需要の回復が裏目に?
JR6社それぞれを見ると、JR東海に至っては定期旅客1人当たりの営業損失が1185円にも達しており、しかも通勤定期旅客でも1148円の営業損失と尋常ではない数値となっている。何とか健闘していると言えるのは定期旅客1人当たりの営業損失を127円に抑えているJR東日本だ。通勤定期旅客1人当たりの営業損失は118円となっており、運輸旅客収入や営業費のさじ加減で黒字への転換も夢ではないかもしれない。
他方、大手民鉄14グループ15社では定期旅客1人当たりで4円の営業利益を、10地下鉄事業者は16円の営業損失をそれぞれ計上している。後者はJR6社同様に赤字ではあるが、それでも1人当たりの営業損失ははるかに少ない。
以上をまとめると、2022年3月期第1四半期はコロナ禍から輸送需要が回復しつつあるものの、JR4社にとってはかえって裏目に出たとなる。定期旅客「だけ」が戻ってくるのであれば全体的に輸送需要が落ち込んだほうがまだよいと、JR6社の関係者たちは考えているかもしれない。
定期旅客の営業収支になぜこれだけの差が生じているのだろうか。それは国鉄時代から継承された運賃制度に原因があり、JR6社の営業努力が足りないからではない。
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