抗体カクテル療法「発症7日後」投与した彼の病状 変異株にも対応できる専用薬の効果と普及の課題

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現段階での有効性をみると、ロナプリーブでは入院していない感染者に実施した第Ⅲ相の臨床試験で、入院または死亡のリスクを7割ほど減少させることが明らかになっている。また、デルタ株だけでなく、複数の変異株に効果があることもすでに確認済みだ。

アストラゼネカも8月24日、同社のウエブサイトで第Ⅲ相の臨床結果を公表し、抗体カクテルが新型コロナの発症リスクを77%抑制できたことを報告した。こちらも当然ながら、デルタ株にも効果を示すことがわかっている。

「アストラゼネカは抗体にある仕組みを施して、体内に薬の成分を残す期間(半減期)を長くすることに成功しています。またロナプリーブよりも少ない抗体量で高い効果が得られているようなので、今後の臨床試験の結果に注目したい」

宮坂さんはこのように話す一方で、効果が十分に発揮されない可能性のある投与法を国が始めていることに危惧を抱く。

細胞への感染が少ない早期に使うべき薬

「細胞への感染を防ぐという抗体薬の仕組みを考えると、ウイルスが細胞に感染する前の投与が最も望ましい。少なくとも細胞への感染が少ない早期に使うべきで、できれば、PCRで陽性が確認されたタイミングで投与したい。理想は、感染から1週間以内の投与。一般的に新型コロナでは潜伏期間が2~3日あるため、症状が出てPCRで陽性が確認されたら、少なくとも4~5日以内には投与したほうがいいでしょう」

現段階では入院患者に限って投与を認めているが、入院やホテルなどでの療養がままならない今、入院を待っていれば好機を逸してしまう。

こうしたことから、宮坂さんは8月24日、免疫学者の平野俊夫さん(大阪大学名誉教授、前総長)と連名で、抗体カクテル療法の初期使用を求める緊急提言を政府に送っている。これを受けてなのかはわからないが、8月25日夜、菅義偉首相は記者会見で、〝入院中、あるいは宿泊施設での療養中の投与〟を原則としていた治療方針を、〝外来でも投与を認める〟という方針に変えることを明らかにした。

「本当は外来だけでなく、自宅療養中の投与も認めてほしい」という宮坂さん。そのためにも、現在は点滴(静脈注射)で行われている投与法を、皮下注射も可能にすることを検討したほうがいいと指摘する。

「今は10mgの薬液を生理食塩水で薄めて点滴で入れていますが、アメリカでは10mgの薬液を2.5mgずつに4分割し、4カ所に皮下注射をする臨床試験が進んでいます。この方法でも点滴と同じ有効性が出ていました。皮下注射であれば看護師さんでも投与することが可能ですし、点滴スペースもいらない。治療の機会をもっと増やすことができます」

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