保健所の手配で民間の救急車に乗り、昼過ぎには大学病院に到着した。そのまま新型コロナの専用病棟へ連れられていき、事前の検査をいくつか受けた後、入院ベッドへ。横になった状態で採血のときに用いた注射針に抗体カクテル療法の点滴をつなぎ、投与が始まったという。
治療時間は正味1時間。終了すると15分ほどの経過観察があり、宿泊することなく、夕方には防護服に身を包んだ運転手のタクシーで帰宅した。
「医師からは、事前に稀にアナフィラキシーという副作用があると説明を受けていて、何かあったときのために、24時間対応できる連絡先を教えてもらいました」(渡辺さん)
その後の経過は冒頭で紹介したとおりだ。熱が下がった2日後にはテレワークで仕事を再開できるまでに回復し、保健所からも自宅待機終了との連絡を受けた。今のところ後遺症もない。渡辺さんは言う。
「医療を受けられるか、運で決まるなんておかしい」
「すぐに抗体カクテル療法を受けられた私はラッキーでした。しかし、そもそも医療を受けられるかどうかが運で決まるなんて、おかしいと思います。この治療を1人でも多くの人が受けられる状況に早くなってほしい」
これまで新型コロナの治療薬として承認されたレムデシビルやデキサメタゾン、バリシチニブ(いずれも一般名)は、基本的には既存の薬の転用であって、新型コロナに対して開発されたものではない。これらに対し、抗体カクテル療法は〝新型コロナのために開発された治療薬〟だ。免疫学者で大阪大学名誉教授の宮坂昌之さんは、「デルタ株による重症化を減らし、医療崩壊を防ぐゲームチェンジャーとなる」と話す。
抗体カクテル療法は、「カシリビマブ」と「イムデビマブ」という2種類の抗体を混ぜた薬を、静脈内に点滴で投与する治療法だ。日本国内で承認されたのは、中外製薬・ロシュが販売するロナプリーブだが、このほかに現在、イーライリリーやアストラゼネカも同様の治療薬を開発、臨床試験を行っている。
ウイルスは細胞に感染しなければ生きていけない。このメカニズムを利用したのが抗体カクテル療法だ。薬に含まれる2種類の抗体が新型コロナウイルスに結合することで、細胞への感染を阻害する。これにより結果的にウイルスを退治することができる。
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