アフガンから米軍撤退、「対テロ20年戦争」の帰結 元NHK特派員が経験した憎しみと戦いの20年

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日本はアフガニスタンで米作りを普及したことがある。乾燥した気候のアフガニスタンでは稲作が行える場所は多くないが、カロリーが高く保存に向いた米は重要だ。よい種を選び、等間隔に苗を植え、雑草を取り除き、収穫を皆で祝う。きめの細かい日本式の稲作が普及した場所では収穫は伸びた。

人心を安定させるためには食糧生産の基盤をつくることが何より大切だ。奪い合い破壊するのではなく、共同作業で育てる文化。それはアフガニスタンで再び増えているケシの栽培を防ぐことにもつながる。まじめに働いていれば貧しくとも安定した生活を送れる「平和の配当」を実感できる時の姿を取り戻すための支援が重要だ。

遠ざかる「平和の再構築」

アフガニスタンへの支援を続けた中村哲さんは、医師として医療活動に従事した後、水があれば多くの病気を防ぎ、農民が暮らしていける基盤ができるとして、川と砂漠を結ぶ用水路を作った。しかし、2019年、アフガニスタンのナンガルハル州ジャララバードで武装勢力に銃撃され死去。追悼式典では大統領が自ら棺を担いだ。

アフガニスタンの国旗は、黒、赤、緑の三色を基調にしている。黒は外国から侵略が続いた抑圧の時代、赤は国民が血を流した内戦の時代を象徴。緑は繁栄の時代をあらわしている。今のアフガンスタンからは緑の部分はほとんど見えてこない。

長くアフガニスタンを見続けてきた元国連アフガニスタン特別代表ラクダル・ブラヒミ氏は来日の際に、「アフガニスタンは貧しい国で過去に多くの紛争があった。最も大切なことは治安を回復し、平和を再構築することだ」と話していた。ただ、平和の再構築は言葉でいうほど簡単なことではない。民主化の進展や法の整備、インフラの充実、教育機会の拡大、人権や女性。新しい国造りも今回遠ざかった。

地域の力の空白も心配なところだ。ベトナム戦争より長い「最長の戦争」を戦った末に、アメリカはこの地域に親米国家を樹立できなかった。タリバンと中国が接近し、イランやロシア、インド、特にパキスタンの関与も気になるところだ。

アフガニスタンが「第二のビンラディン」を生む場になるのか、これから注視しなければならない。そして第二のビンラディンが事を起こすかもしれないという理由で、戦いや憎しみの連鎖が繰り返されることはないのか、警戒が必要だ。

広瀬 公巳 国際ジャーナリスト

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ひろせ・ひろみ

1963年大阪市生まれ。国際ジャーナリスト、岐阜女子大学南アジア研究センター特別客員教授。東京大学教養学科卒業後、NHKニューデリー支局長、解説委員などを歴任し約50カ国の現場を取材する。著書に、スリランカの民族紛争を扱った『自爆攻撃 私を襲った32発の榴弾』(第34回大宅賞最終候補作、日本放送出版協会)、『インドが変える世界地図 モディの衝撃』(文春新書)など。日本南アジア学会、日印協会、日本マス・コミュニケーション学会会員。

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