アフガンから米軍撤退、「対テロ20年戦争」の帰結 元NHK特派員が経験した憎しみと戦いの20年

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このミサイル攻撃はアメリカ側が「自国を守るためには予防的攻撃を行ってもかまわない」という姿勢を明確に示したものだった。その姿勢は、9・11テロ事件の被害者意識と次の攻撃への危機意識の中でさらに高まった。その結果、ブッシュ政権は「対テロ戦」という新しい戦争概念を作り上げることになる。

「われわれの側につくのか、それともテロリストの側につくのか」

同時多発テロの翌2002年9月に発表されたブッシュ・ドクトリンでは「アメリカは必要であれば自国防衛のために予防的行動をとる」「自由と民主主義を広げるためには積極的な軍事介入が必要だ」とされた。そして、イラクが大量破壊兵器を隠し持っているという口実でイラク戦争が始まった。

アルカイダからイスラム国へ

筆者はカタールに長期出張し、アメリカ中央軍司令本部で連日行われる記者会見内容をリポートした。2003年のフセイン政権の最後まで見とどけたが、大量破壊兵器は結局見つからなかった。

その後、「国家ならざるもの」は進化し、アルカイダからイスラム国へと引き継がれていった。預言者ムハンマドの正統な後継者であるカリフが導くという、驚くべきイスラム共同体社会が出現した。少数民族や宗派の武装組織など非国家の主体が次々と活動を活発化していき、安価で高い性能を持つ旧ソビエト製のカラシニコフ銃や携帯式の対戦車兵器の普及も非国家組織の実戦力を強めた。

いったい何が憎しみと殺戮の連鎖を生み出しているのか。2001年の同時多発テロ事件の直後には、パキスタン国境の町クエッタでイスラム教の神学校「マドラサ」を訪れた。当時、タリバン政権は、アルカイダを率いるビンラディンの引き渡しに応じず、パキスタンからは多くのイスラム教徒たちが義勇兵としてアフガニスタンに向かおうとしていた。

マドラサの教室では教師が子どもたちにイスラム世界を外界から守るための聖戦を説いていた。教師はソビエトの軍事侵攻と戦ったイスラム戦士で、子どもたちの父親の多くも戦場での実戦経験を持っていた。子どもたちは、自分も父親と同じようにイスラムのために命を捧げるのが夢だと口々に語った。

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