アフガンから米軍撤退、「対テロ20年戦争」の帰結 元NHK特派員が経験した憎しみと戦いの20年

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この本を原作として制作された映画『ローン・サバイバー』では、精鋭部隊の4人がライフルを手に徹底的に戦う。だが機関銃などで武装するタリバンの猛攻に3人が死亡。著者は唯一の生き残りとなった。

筆者はラトレル氏と会ったことがある。2メートル近い上背で、ターミネーターのような冷たい目と、骨が突き出たごつごつした体が印象的な男だった。ラトレル氏は「交通事故で亡くなる、年老いて亡くなるという死に方もあるが、われわれは戦士なので、仲間と共に戦って死にたいと思っている。黒と白に分けられないグレーゾーンで戦うものが戦争だ」。

国の命令に全面的に従い、命を捧げるのが当たり前という愛国心が強く漂っている。どこかイスラム過激派の戦士と共通項がある。今は対テロ戦も進化し、精鋭の特殊部隊も厳しい極限状態に置かれるようになった。現場には子どもや戦闘員だけではなく、つねに生身の人間がいることを忘れてはならないだろう。

アフガニスタンは結局、20年かけて振り出しに戻った。

農業国アフガンは輸入と援助頼みに

時計の針をいったん1989年まで戻すと、当時のアフガニスタンでは侵攻していたソ連軍が撤退。内戦の時代に入り、法や秩序が失われる中でタリバンがほぼ全土を実効支配した。国際社会と隔絶された状況の中でテロ組織とのつながりを深めていった。

それ以前のアフガニスタンは農業国だった。ドライフルーツなどを輸出し、国民の大半が農業に従事してきた。しかし戦禍によって小麦も米も輸入と援助に頼らざるをえない状況が生まれた。

2012年の東京での復興支援会議の際に来日したバルマック農村復興開発相は「ゆっくりでも確実な進歩を実感できれば、アフガニスタン人は我慢強く前に進んでいくことができる」と話していた。バルマック大臣は農産物の収穫を増やして農村部の発展と食料不足の解消につなげたいと希望を語った。

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