キリン「214億円減損」にミャンマー事業の代償 現地のコロナ感染拡大と政情不安が大打撃

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なおキリンHDはミャンマー・ブルワリーの他、2017年にMEHLの一部門であったマンダレー・ブルワリーを合弁会社化した。キリンHDは2つの合弁会社にそれぞれ51%、MEHLが49%出資している。

軍事クーデターの発生から4日後の2021年2月5日、キリンHDはMEHLとの合弁解消を発表した。ただ、合弁解消に向けた協議はコロナ禍で交渉が難航しており、継続中だという。

決算会見の場で常務執行役員の吉村透留氏は、国軍の行動について「われわれのビジネス規範や人権方針に反するものだ」と強調した。キリンHDとしてはクーデターに批判的姿勢であることを改めて主張したわけだ。

一方キリンHDも加盟する日本ミャンマー協会は、「ミャンマー国軍の行為は現行憲法に則ったものでありクーデターではない」との内容を含む事業計画・方針案を採択している。

同協会はミャンマーへの経済協力を目的に2013年に設立され、キリンHDのほかに大手総合商社など125社が加盟する。同協会の採択についての見解を尋ねられた吉村氏は、「(クーデターが憲法に則ったものだという主張は)われわれの認識と違う」と語った。だが、キリンHDが採択に賛同していたかどうかについては、明言を避けた。

なおミャンマーから事業撤退については、「事業を通じてミャンマーの顧客に貢献するスタンスは変わっていない」(吉村氏)としている。

減損リスクは限定的かもしれないが…

ミャンマーは2011年の民政移管後、経済改革が進み「アジア最後のフロンティア」として外国企業の進出が進んできた国だ。しかしクーデターで状況は一変した。

合弁先のMEHLが国軍系企業であることによる不買運動は「(業績に)大きな影響を与えるものではない」(吉村氏)とするが、経済的な損失が今回具現化した。

のれんの減損損失214億円を計上したことで、財務的な懸念が小さくなったとはいえ、人権リスクは企業ブランドの毀損など多方面でマイナス影響を及ぼす。早期の合弁解消が急務だ。

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日本ミャンマー協会「市民弾圧する軍」擁護の衝撃

クーデターで表面化、日本企業の「人権リスク

ミャンマーの平和実現へ 日本外交がすべきこと

兵頭 輝夏 東洋経済 記者

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ひょうどう きか / Kika Hyodo

愛媛県出身。東京外国語大学で中東地域を専攻。2019年東洋経済新報社入社、飲料・食品業界を取材し「ストロング系チューハイの是非」「ビジネスと人権」などの特集を担当。現在は製薬、医療業界を取材中。

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