列車内の無差別凶行、再発防止の手立てはあるか 防犯カメラ設置は進むが、手荷物検査は困難か

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東急で設置が急速に進んだ理由には、新たな方式の防犯カメラの導入がある。同社が採用したのは、車内の蛍光灯と一体化したタイプのカメラ。同社によると、従来型のカメラには配線などのために1両当たり2週間の工事が必要なところ、同タイプは30分で済むため、一気に取り付けが完了した。また、従来型のカメラは映像を車内の記憶媒体に保存する形がほとんどだが、このタイプは「鉄道業界初」(同社)という4G通信機能を備えており、ほぼリアルタイムで状況を確認できるという。

東急電鉄が採用した蛍光灯一体型・4G通信機能付きの防犯カメラ(記者撮影)
山手線の車内にある非常通話装置(撮影:風間仁一朗)

防犯カメラと共に、車内の安全装置となるのが「車内非常通報装置」だ。同装置は車内で異常事態が発生した際、乗客がボタンを押すことで乗務員にトラブルを知らせるための設備。鉄道会社によって異なるが、各車両のドア付近や車両の連結部近くの壁に設置されているケースが多い。

従来のタイプはボタンを押すとブザーが鳴り、車両側面のライトが点灯するが、近年の新型車両は乗務員や指令所と対話できるタイプが増えている。

車内で異常が発生すればその様子は防犯カメラに捉えられ、発見者が非常ボタンを押せば乗務員らによって何らかの対応が取られることになる。

事件はどこでも起こりうる

ただ、これらの設備の存在が利用者に広く浸透しているとはいいがたい。防犯カメラに期待されるのは記録とともに「抑止力」だが、カメラ作動中などの表示はあるものの、あまり目立たないケースが多い。非常通報装置には「SOS」のマークがついているものの、赤白のストライプや黄色い本体などで目立つホーム上の列車停止ボタンに比べるとややわかりにくいといえる。いざという時、被害を最小限に留めるためにはこういった設備についてさらに周知を図る必要がありそうだ。

国交省は2020年に東京駅で危険物探知犬を使ったセキュリティ向上策の実証実験も行った(撮影:尾形文繁)

今年7月から鉄道事業者が実施可能になった乗客の手荷物検査についても、実験はすでに行われている。国交省は2019年3月に東京メトロ霞ケ関駅、2020年に都営大江戸線の新宿西口駅の改札でボディスキャナーを使った「旅客スクリーニング装置」の実証実験を行った。人体から放出される電磁波の一種であるテラヘルツ波を映像化し、服の中に隠し持ったものを検出する仕組みだ。

ただ、今のところは実験段階だ。海外では都市鉄道でも手荷物検査を実施しているケースがあるが、日本の都市部では利用者数を考えると「実質的に困難では」とする鉄道関係者が多い。

赤羽一嘉国交相は8月10日に開いた記者会見で、「まずは捜査当局による捜査の状況を注視するとともに、小田急における現場の対応に関する検証の結果等を踏まえて、どのような対策が必要か、警察、鉄道事業者など関係者と連携し、速やかに検討してまいりたい」と述べた。

一方で、こういった犯罪は列車内に限らずほかの場所でも起こりうることだ。鉄道側による対策も重要ながら、根本的には無差別殺傷のような凶悪事件の発生を社会全体でいかに防いでいくかを考えなければならないだろう。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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