急落した金価格は今後もさらに下落するのか 下落から反転するタイミングはいつになるのか

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そもそも、金市場を巡るファンダメンタルズ(基礎的条件)は、それほど悪いものではなかった。相場の変動要因として、真っ先に挙げられることが多いアメリカの長期金利は名目金利、実質金利ともに低下基調にあった。

投機資金を呼び込むには、理想的な状況にあった

また、FRB(連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長は7月の議会証言やFOMCで「足元のインフレは一時的な要因によるもので、利上げの時期はまだまだ先である」との見通しを、かなりはっきりとした口調で述べている。金が投機資金を呼び込むには、理想的な状況にあったということができよう。

実際、主要株価指数が史上最高値の更新を繰り返してきたことも、それを物語っている。しかも「新型コロナのデルタ変異株の感染が急拡大し、景気回復の足枷となるのでは」との懸念も強まっており、安全資産としての金に対する需要は根強いはずだった。

こうした強気の相場環境が、8月6日の雇用統計でガラリと変わってしまったことは否めない。発表を受けて長期金利が上昇、ドル高が一気に進んだことを見る限りでは、前述の金に対する強気の材料は、大方が消滅してしまったと考えておいたほうがよさそうだ。

何より、ここへきて早期のテーパリング(緩和縮小)に対する懸念が高まってきたことの意味は大きい。パウエルFRB議長がいくら否定的なコメントを繰り返しても、足元でインフレ圧力が高まっているのは事実だ。

すでに2日にはFRBのクリストファー・ウォラー理事が「雇用の回復が予想通りのペースで進むなら、9月のFOMCでテーパリングの方針を打ち出し、10月から開始する」との見通しを明らかにしたし、

また5日にはリチャード・クラリダ副議長が、やはり早期テーパリング開始を示唆するコメントを残している。さらに、6月のFOMC後には、それまでハト派と見られていたセントルイス地区連銀のジェームズ・ブラード総裁やアトランタ地区連銀のラファエル・ボスティック総裁が、タカ派的な姿勢への転換を明確にしたことも忘れてはならない。

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