意外に多い、著名建築家が手がける鉄道デザイン 集客期待大、工業デザイナーの手による駅舎も

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水戸岡氏のデザインというと、和歌山電鉄「たま電車」などのように、観光客をターゲットにしたアミューズメント志向のものが多い。駅舎についても、和歌山電鉄の終点である貴志駅、山梨県を走る富士急行の富士吉田駅が改名した富士山駅などは、移動の楽しさを盛り上げる方向のデザインがなされている。

一方JR九州では、同氏は「ななつ星in九州」に代表される観光列車だけでなく、通勤型の電車や気動車に関わっていることもあり、地方都市の玄関口となる駅舎のデザインも担当している。

JR九州・平成筑豊鉄道の直方駅(筆者撮影)

とはいえ機能一辺倒でないところは水戸岡流だ。たとえば福岡県の直方駅は、かつて石炭の産出で栄えた筑豊地方の代表都市の1つであることを意識して、黒や茶色を多用している。地域性を重視する姿勢は、観光列車と共通している。

隈氏同様、木などの自然素材を多用することも同氏の個性と言える。車両のデザインでおなじみだが、駅舎も例外ではない。上熊本駅では駅舎正面からホームに至るまで熊本県産のスギやヒノキなどを多用し、温かみのある空間を作り出している。

「トータルデザイン」の例

路面電車では車両と停留場などのインフラを一体で考える、トータルデザインという手法もある。

路面電車が走る富山市の「大手モール」(筆者撮影)

この手法を推進するのが、国内各社の鉄道車両を手がけてきたGKデザイングループで、富山市の富山地方鉄道富山軌道線(通称市内電車)などで導入している。

とくにわかりやすいのは大手モールと呼ばれる通りで、市内電車環状線の開通に合わせて全面石畳とするとともに歩道を広く取り、架線柱は目立たない造形や彩色がなされ、花が飾られている。LRTをシンボルとした魅力的な景観を目指そうという意志を感じる。都市計画からサインまで幅広い分野を手がける同社らしい。

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鉄道は車両だけでなく駅などのインフラとセットで導入する交通である。現在は新型コロナウイルス感染症の影響で、多大な投資は難しい局面ではあるが、車両と駅舎のそれぞれに新鮮なデザインを投入することは、利用者の誘致にもつながるはずであり、これからも乗ってみたくなる車両、使ってみたくなる駅を生み出してほしいと考えている。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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