意外に多い、著名建築家が手がける鉄道デザイン 集客期待大、工業デザイナーの手による駅舎も

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妹島氏の建築に関する記事を追っていくと、「内と外とのつながり」というニュアンスの言葉に多く出会う。たしかにそれは、日立駅とラビューに通じる概念だ。どれも大きなガラスを多用することで内外の境目を薄め、外にいる人は中に入りやすく、中に入ると外の景色が手に取るようにしていることが伝わってくる。

ここまで見てきて、2氏は建築家でありながら設計ではなくデザインで関わっていることに気づいた人もいるだろう。これは当然のことであると考えている。

駅舎は建築物ではあるが、乗降客をスムーズに流し、出札や改札などの業務を行うなど用途が特殊であり、専門知識がないと構造面まで引き受けるのは難しい。車両設計では専門性がさらに高くなることは、あらためて説明するまでもないだろう。

高輪ゲートウェイ駅と日立駅の設計は、ともにJR東日本建築設計というその道のスペシャリストが担当している。逆に言えば、こうした組織を持っているからこそ多彩な建築家に依頼できるのではないかと考えている。

もう1つ、車両と駅舎の事業者が同一でないことにも気づく。建築家は公共事業の業務が多く、コンペ(設計競技)を経たうえでの受注が多いことが関係しているのかもしれない。単一の事業者と一定期間の契約を結び、意匠を一括して引き受けることも多いデザイナーとは違う部分である。

工業デザイナーの手による駅舎

工業デザイナーが駅舎に関わる例もある。代表格はやはり水戸岡鋭治氏だろう。

水戸岡鋭治氏による和歌山電鉄の「たま電車」(筆者撮影)
和歌山電鉄の貴志駅(筆者撮影)

水戸岡氏はJR九州をはじめ、数々の鉄道事業者で車両のデザインを手がけているが、鉄道専門というわけではない。

同氏と鉄道との関わりは、福岡市のホテルのロゴマークやサインなどのアートディレクションを引き受けたことを契機に、JR九州とのつながりが生まれたことが発端だ。最近も居住地である東京都板橋区のオフィシャルロゴやご当地ナンバープレートなど、鉄道以外の分野を手がけている。

鉄道ではJR九州以外に岡山電気軌道、和歌山電鉄、富士急行、京都丹後鉄道などの車両デザインに関わっているが、一部の鉄道事業者では駅舎も担当している。2021年3月には岡山県矢掛町に同氏が手がけた「道の駅」の駅舎まで登場した。

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