特需がもたらす一時の幸福 アジア制覇なくして生きる道無し

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排ガス規制とはNox(窒素酸化物)とPM(粒子状物質)の削減を狙いとする規制である。
 そもそもNoxの規制は1970年代から実施済みだったが、PMとなると、欧米諸国に比べ国内の規制は大幅に遅れていた。しかし、今年10月から、東京都他3県の条例が実施されることにより、日本の環境規制はやっと世界水準に達する。
 この条例施行により、他県から都内に流入するトラックも含め、1996年9月以前に新車登録したディーゼル車は、後付け装置無しでは、都内を走行できなくなる。自動車検査登録協力会の統計(2002年3月末)によると、貨物車の全保有台数(関東地方)に占める規制不適合車は約54%にものぼり、124万台前後の貨物車が対象。買う側の運送業者にとっては残酷な話だが、売る側のトラックメーカーにとっては神風のようなものである。
 ただ、規制施行の時期が、国と都でずれるため、各社はトラック販売の特需が今年から3年間に渡って生まれてくると見られる。現時点の需要増については「(都条例対応の)都心部需要に加え、地方でも更新需要がでてきている」(当麻茂樹・いすゞ自動車CFO)という見方が支配的だ。都条例対応の買い替えは、規制が施行される今年10月にピークを迎え、その後は、国の法律に対応した地方の需要が牽引役となるはずだ。
 ただ、「現在は、勝ち組みに属する大手企業の計画的な買い替えが中心で、財務基盤が脆弱な中小運送業者の出方には不安が残る」(蛇川忠暉日野自動車社長)という風で、今年10月以降の買い替えにはやや陰りが見えてくる公算が大きい。
 個別企業に目を移すと、大手4社の中で最も有望なのは日野自動車と見る。その理由は、30年連続で普通トラックシェアでナンバーワンを堅持しているブランド力、そして、一昨年6月から社長を務める蛇川忠暉の手腕だ。トヨタ式の効率的な生産体制はすでに確立されつつあり、顧客基盤も他社に比べて強固。
 対抗馬の三菱ふそうは、2002年度、普通トラックのシェア・ナンバーワンの座を争い、日野とデッドヒートを繰り広げた。ただ、03年度からは三菱自動車の連結対象から外れ未上場となり、ダイムラークライスラーの世界戦略の一翼を担うことになる。国内普通トラック市場の覇権を巡る争いの中心はこの2社になる。
 一方、いすゞは4社の中で海外売上比率が最も高いことが両刃の剣となるが、シェア・ナンバーワンを誇る国内小型トラック市場では大いに稼ぐはず。ただ、財務状態が劣悪であるため、みずほ銀行の出方に常に目を光らせておく必要がある。
 最後は、大手4社の中では最弱と呼ばれる日産ディーゼル。この会社の泣き所は、他社に比べて顧客層が悪いこと。02年度中間期には販社の貸倒引当金を約47億円を計上する羽目に陥っている。ただ、足元の成績は順調で、在庫削減等により捻り出したキャッシュを元手に、計画を上回るペースで有利子負債削減を進めている。このまま財務が健全化すれば、あっさりどこかの会社(例えばボルボ)に買収されるかもしれない。
 特需で一服できるとはいえ、各社に与えられた猶予期間はせいぜい3年。それまでに、低水準の国内需要で喰っていけるコスト競争力を付け、さらに、世界のトラック需要の半分を占めるアジア市場に確たる足場を築かない限り、早晩、再編の荒波に飲まれることは必至である。
【佐々木紀彦 記者】


(株)東洋経済新報社 電子メディア編集部

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