「エンパシー」を使って働きやすい環境を整える策 ブレイディみかこ氏が語る"エンパシースキル"

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同様に、職場でもエンパシー力が高い女性はそれを搾取されて、業務以外のことまでやってしまっているケースが多い。女性管理職を増やすアファーマティブ・アクションも大切ですが、末端の職場で起きている日常的問題が改善されなければ何も変わらない。

これは職場だけでなく、学校でもそうですが、日本の人々は自分たちにとって本当に身近で切実な問題ほどフランクに話し合う機会を持っていないように思います。いつも同じような定例会議をするより、こうした問題を全員で話し合う時間を頻繁に作ったらいいのでは。

集まって意見をぶつけ合い、落としどころを見つけて自分たちのコミュニティーの問題解決をはかり、組織の機能していない部分はどんどん壊して変えて行く。これは参加型民主主義の第一歩です。これをやらないと、ずるずる現状維持になって衰退するだけです。

国の未来を設計する人々の想像力が試される

――今後の日本における働き方改革には何が一番必要でしょうか。

コロナ禍でリモートワークが当たり前になり、世界中で働き方が変わると言われています。イギリスでも、州境どころか国境の外側から働く人も増えました。働く時間も場所も多様な時代になると、「仕事のための自分」という意識は薄れ、自分のために仕事があるという意識が強くなると言われています。

『他者の靴を履く アナーキック・エンパシーのすすめ』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

その一方で、現場に行かなくては仕事ができない人々、介護士、保育士、看護師などの「ケア階級」の人々(つねに「他者の靴を履いて」仕事をしている人々)が、社会にとって重要な仕事をしているのに賃金も低く、長時間のシフト労働で、いつまでもエンパシーを搾取され続ける構図ではいけない。

働き方改革が単に働く人々の二層化を推し進め、格差を広げるものになったり、末端の労働者にとっては「ブルシット(クソどうでもいい)改革」にならないためには、そう簡単に働き方を多様化できない人々の賃金を上げること、そしてケア階級の社会的地位を上げる政治的努力が必要だと思います。

とくに日本のように高齢化が進む国では、ケア労働者はすこぶる重要な人々。国の未来を設計する人々の想像力(エンパシー)が試されています。

ブレイディ みかこ ライター・コラムニスト

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Brady Mikako

1965年福岡市生まれ。県立修猷館高校卒。音楽好きが高じてアルバイトと渡英を繰り返し、1996年から英国ブライトン在住。ロンドンの日系企業で数年間勤務したのち英国で保育士資格を取得、「最底辺保育所」で働きながらライター活動を開始。2017年に新潮ドキュメント賞を受賞、2019年『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』でYahoo!ニュース|本屋大賞2019年ノンフィクション本大賞、毎日出版文化賞特別賞などを受賞。他の著書に『労働者階級の反乱』『女たちのテロル』『ワイルドサイドをほっつき歩け』『ブロークン・ブリテンに聞け』などがある。

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