「エンパシー」を使って働きやすい環境を整える策 ブレイディみかこ氏が語る"エンパシースキル"
――まず上司は部下にどのようにエンパシーを働かせたらよいのでしょうか。ジェネレーションギャップで若者との接し方がわからない、仕事上の問題の注意の仕方やモチベーションの高め方がよくわからない人も多くいます。
部下の靴を履いてみるときに、自分の考えや経験、信条に縛られたまま履かないことが大事だと思います。これができないと「自分の時代はもっと大変だった」とか「すぐ傷つく世代」とか言いたくなるだけで前進しない。
自分とは違う「他者」として若い人々を尊重し、他者から他者のことを学ぶ、ぐらいの気持ちで耳を傾けてみることが必要では。違う文化圏で育った人たちが一緒に仕事をするときにも、そういう努力が不可欠ですよね。
それから、自分にも今、部下がしている業務の経験はあるから、と思い込んでいても、昔とはテクノロジーも違うし、大変な部分も変わっていますから、現場を体験するのもいいと思います。リアルに部下の靴を履いてみる。そうすればかける言葉も現状に即したものになるのでは。
「逃げることは自分でできる革命」
――ブラック企業やサービス残業の押し付け、パワハラ体質の上司に泣き寝入りしないためにはどうしたらよいのでしょうか。
「顔色を伺う」という言葉がありますが、下の立場の人は、上の立場の人の気持ちや考えをつねに慮って動いています。叱られないように、喜んでもらえるように、と。これも他者への想像力なので、下の階層の人間ほどエンパシーが発達すると、人類学者のデヴィッド・グレーバーは指摘しました。
そうすると、上の立場の人は「会社も大変なんだ」「この難局をみんなで耐えて乗り切ろう」と部下のエンパシーを刺激するようなことを言い、長時間ひどい待遇で働かせたりする。これはエンパシー搾取です。
エンパシーが強い人ほど「わがままは言えない」と自分を犠牲にする。DVに似ていますよね。暴力を振るわれているのに、加害者の靴を履いて「この人もつらいのだから」と逃げられなくなる。だから最終的には命を落とす悲惨な結果になることもあります。
さっさと逃げましょう。逃げることは自分でできる革命です。
――職場のなかでのジェンダーギャップをどう解消していったらよいのでしょうか。日本の企業風土の問題点も教えてください。
グレーバーは、男性より女性のほうが高いエンパシーを示しがちなのも、階層で説明できると言いました。つまり、社会的に男性よりも地位が低いとされてきた女性は、家庭でも男性のケアをする役割を負い、誰かの靴を履くことが日常的になっているのでエンパシーが育っていると。
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