ボーイングが最新機種でも「操縦桿」を使う理由 ジェット旅客機の2大メーカーでこんなに違う
その理由の1つは、ボーイングの「パイロットの過去における訓練と運航経験を重要視する」という設計思想です。パイロットの基礎訓練では操縦桿の飛行機が多く、不測の事態に遭遇したときには訓練時代から感覚的に身についている操縦桿のほうがよいと考えているわけです。
さらに、新技術や新機能を持つ装置の導入では、「明確に機能し効率的な利点がある」「パイロットに有害な影響を与えるインタフェースではない」という考え方も影響しているようです。サイドスティックは、設置側の手が怪我などで動かくなってしまうと操縦が困難になるリスクがあります。
このように、サイドスティックは万が一の場合、パイロットに有害な影響を与えるインタフェースとなる可能性があるため、どちらの手でも操縦可能な操縦桿を残したと思われます。
ボーイングとエアバスの設計思想の違い
また、ボーイングは「飛行を制御する最終的な権限はパイロットにある」という設計思想です。一方のエアバスは「飛行を制御する権限は、通常の運用限界範囲内においてのみ」という設計思想です。つまり、エアバスは「パイロットといえども運用限界を超えて飛行する権限はない」と考えていることになります。
パイロットの飛行を制御する権限が違う例を挙げてみましょう。例えば、エアバスではバンク角の制限である33°を超えると警報を発しますが、それを無視してサイドスティックをさらに操作し続けても67°以上のバンク角にはならないようになっています。それに対して、ボーイングはバンク角が30°を超えると、メッセージ表示や操縦輪が重くなるなどの警告機能はありますが、自動停止の機能はありません。つまり、警告よりも強い力で操縦輪を回せば、思いのままのバンク角にできるのです。
この大きな違いは、ボーイングが「自動化はあくまでも援助のためであり、パイロットに置き換わるものではない」と考えているからです。過去に次のような事例がありました。
ある旅客機が、離陸直後に「ダウンバースト」と呼ばれる強烈な下降気流に遭遇しました。
このとき、同機のパイロットは、最大離陸推力の制限を超えてエンジン出力を増加させ、かつ失速警報装置を無視し続け、揚力係数が最大となる速度まで減速して飛行したのです。これにより下降気流に負けない推力と揚力を確保して安全に回避できました。この事例のように、ボーイングは、不測の事態においては、机上で想定したコンピュータ・プログラムよりも、機上で緊急事態に遭遇しているパイロットの判断を優先させたほうが最良となる場合があると考えているのです。
エアバスA350の場合、パイロットによる操作信号は主飛行制御コンピュータ(PRIM)に直接入力されます(図2)。一方、ボーイング787の場合、パイロットの操作信号は、まず舵面アクチュエーターを制御する装置(ACE)に入ります(図3)。主飛行制御コンピュータ(PFC)は、ACEからの操作信号をもとに、舵角を算出してACEに返します。ACEは、その舵角になるように各舵面を作動させています。
このように、わざわざ演算部門と制御部門に分けているのは、最終的にはパイロットがコンピュータを介さず直接アクチュエーターを制御して舵角を自由に決められるようにするためです。
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