不祥事続発「ブルシットマネジメント」の深層 上層部の具体的な目標設定が組織の暴走を招く
そのなかに、燃料タンクに関する決断もあった。空間と重量の要件を満たすために、燃料タンクの位置を動かしたのだ。後車軸の上に設置するのが一般的だが、彼らはタンクを軸の後ろに置いた。それにより、後車軸は燃料タンクを守る役割を果たせなくなった。
ピントが市場に出回ると、フォードのエンジニアは燃料タンクの安全性を気にし始めた。会社として費用対効果分析を行ったところ、燃料タンクに欠陥があると、1年で180名の死者と180名の重度の熱傷患者を生み出すとの想定が出た。その責任や、死亡者への損害賠償に備えておくべき年間予算は、4950万ドルだ。
その一方で、燃料タンクの安全性を改善するのにかかる費用は、車1台につき11ドルという見積もりだった。燃料タンクの位置を変えた車(一部軽トラックも含む)は、1000万台は販売済みなので、改善するとすれば年間に1億3700万ドルかかることになる。
組織全体が赤ワークに没頭する
燃料タンクの安全性を高めるための費用のほうが、燃料タンクが原因で死傷者が生じた場合にかかる費用よりも多い。そして、燃料タンクは直さないという決断が下された。
これはフォード特有の問題ではない。戦略構想が生まれ、事業化されるか、具体的な目標が定められるかすると、たいていはそれが、達成すべき長期的なビジョンとして受け止められる。
会社の上層部による戦略レベルで具体的な目標を定められると、組織全体が証明と実行の思考心理になる。要は、実行の赤ワークを成し遂げることにとらわれて、思考の青ワークを行うことへのハードルが高くなるのだ。
そうなると組織は、産業革命時代から続く、ありとあらゆる「プレー」に手を出す。青ワーカー(上層部)は赤ワーカー(現場)に対して強要して服従させ、目標を達成するまで赤ワーク(作業)を続行させる。
私が本書で紹介した「新しいプレーブック」にあるような、中断、時計の支配、連携をとるための時間の確保、区切りがついたという実感、労いといったプレーは、時間の無駄であり、作業の邪魔とみなされる。
すると学習は抑圧され、組織としての敏捷性や適応力も発揮できなくなる。そして、長きにわたって生き残れる確率が下がる。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら