もはや民主主義国が少数派に転落した世界の現実 実は迷走、危機に瀕する「アメリカの民主主義」

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逆転現象は国際機関の場でも明らかになっている。国連の人権理事会は2020年6月、民主化運動の弾圧を目的とする中国の香港国家安全維持法を取り上げ、中国批判派と支持派が対立する事態となった。批判派は日本をはじめ27カ国だったのに対し、支持派は約2倍の50カ国だった。その多くが権威主義国家、独裁国家と呼ばれる国々であり、中国の一帯一路政策の恩恵に浴している国々だった。

今年に入ってからは中国・新疆ウイグル自治区での人権問題に焦点が当たり、現地調査など何らかの対応を求める声が出ている。しかし、こちらも中国支持派の国が反発し、人権理事会は身動きが取れないでいる。つまり国連などの場では民主主義国は少数派となっているのである。

もちろん非民主主義国側に民主主義に対抗するような共通するイデオロギーや思想のようなものがあるわけではない。独裁的な指導者が自らの権力を維持するために民主主義を否定している国もあれば、冷戦後に一度は西欧流の民主主義システムを取り入れたものの、国内の政治や経済が混乱したため再び権威主義国家に戻ったハンガリーやポーランドのような国もある。その多くが途上国であり、中国からの援助を期待して中国に歩調を合わせている。

対中危機意識で日米欧間にギャップ

懸念はそれだけではない。G7の中にも不協和音は残っている。今回の共同宣言は中国に対抗する政策で各国が足並みをそろえた格好になっている。しかし、関係者によると、今回のサミットは中国に対する危機意識で日米と欧州の間にかなりのギャップがあったという。

共同宣言の文案は首脳会合開催の直前まで、「シェルパ」と呼ばれる各国の首脳側近の官僚らが調整して原案を作成していた。独仏を中心に欧州各国が「中国」という国名を挙げて人権問題などを非難したり、「台湾」に言及することに消極的だったため、原案はかなり穏やかな内容だったという。

それを知ったバイデン大統領は現地入り後、イギリスのジョンソン首相をはじめ、各国首脳と個別に接触するなどして中国に対し、より厳しい表現を盛り込むことを求めた。日本の菅義偉首相もバイデン大統領に歩調を合わせ、各国首脳に訴えたという。その結果が、宣言文となった。

ドイツやフランス、イタリアはもともと中国との経済関係を重視しているが、それに加えて大統領が交代するたびに対外政策が大きくぶれるアメリカに対する不信感が根強い。フランスのマクロン大統領は「G7は中国に敵対するようなクラブではない」と述べ、ドイツのメルケル首相も以前から「世界を再び2つに分けることには関心がない」などと語っている。

中国は民主主義に対する挑戦者だという共通認識のもと、G7が強く結束していると言い切ることはできない。

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