もはや民主主義国が少数派に転落した世界の現実 実は迷走、危機に瀕する「アメリカの民主主義」

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バイデン大統領の危機感は外の世界だけではない。アメリカ自身の民主主義すら危なっかしくなっているのだ。

就任直後、バイデン大統領はメキシコ国境の壁建設をやめ、地球温暖化対策の国際枠組みであるパリ協定への復帰や、世界保健機関(WHO)脱退の取り下げを果たすなど、トランプ政権時代の政策を転換した。

しかし、アメリカ第一主義を掲げたトランプ氏が日本やEUに課している鉄鋼やアルミニウムに対する高率の追加関税は撤廃していない。日米首脳会談の際には、アメリカ側がこの問題を取り上げることに消極的だったという。そして、環太平洋経済連携協定(TPP)への復帰もまったく話題になっていない。

民主主義の価値、開かれた市場の重要性など抽象的な主張はするが、具体策となるとトランプ政権時代の政策が無修正のまま継続しているものが少なくない。

バイデン政権が抱える「自己矛盾」

その理由ははっきりしている。アメリカは2022年秋に中間選挙を、その2年後には次の大統領選挙を控えている。そこで重要なのが中西部の「プア・ホワイト」と呼ばれる白人労働者層の票の行方だ。2016年の大統領選でトランプ氏が勝利したのも、2020年にバイデン氏が勝ったのも、この層の投票行動が決定的な要因となった。

バイデン政権が掲げる「中間層のための外交」は、一言で言えば、アメリカ国民、特に中間層の人々の利益になる外交を重視するというもので、国内産業を振興し、雇用の場を確保するための内向きの外交にほかならない。

つまり、バイデン政権はトランプ政権の政策を否定しているかのように見えるが、実態はトランプ氏の復活を阻止するために、トランプ的な政策を継続せざるを得ないという自己矛盾を強いられている。

中国の台頭を受けて民主主義が揺らいでいるため、国際協調主義のもと民主主義国の結束を働きかける一方、国内においてはトランプ氏の復活を抑え中間層の支持を拡大するために、トランプ的な一国主義的対外政策をある程度は維持せざるを得ない。

方向性が矛盾する内政、外交の政策をこの先、どう実現していくのか。バイデン政権の向かう先を想像することはなかなか難しい。

はっきりしているのは、民主主義をめぐってアメリカが迷走している間にも、世界が徐々にパワーチェンジの時代に入りつつあることだ。

薬師寺 克行 東洋大学教授

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やくしじ かつゆき / Katsuyuki Yakushiji

1979年東京大学卒、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸や外務省などを担当。論説委員、月刊『論座』編集長、政治部長などを務める。2011年より東洋大学社会学部教授。国際問題研究所客員研究員。専門は現代日本政治、日本外交。主な著書に『現代日本政治史』(有斐閣、2014年)、『激論! ナショナリズムと外交』(講談社、2014年)、『証言 民主党政権』(講談社、2012年)など。

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