「ペーパーとはいえ、時速200キロメートル超のスピードで上昇し、高度約100メートルにまで到達するロケットを用意しました。僕が試しに飛ばして見せると、子どもたちは『自分が作ったロケットは、どうせ飛ぶわけがない』なんて言う。でも、自分で発射ボタンを押すと、ちゃんと飛ぶ。みんな大喜びですよ。ダメかもしれないと思い込み、不安を募らせたうえでの成功って、きっと自信につながるのです。ロケットは実にうまくそれを伝えてくれる教材だと感じました」
その後いじめがなくなり、手応えを感じた植松氏は、ロケット教室の開催に注力し始める。初めのうちこそ学校の理解を得られず苦労したが、年間約1万2000人の子どもたちが修学旅行で同社を訪れるまでになった。また、高度を40メートルに抑え狭い敷地でも安全にロケットを発射できる体制を整え、同社による出張や協力団体によるロケット教室が全国でも開催できるようになったという。
「どうせ無理」の撲滅から始めた教育事業。植松氏は現在、北海道滝川高等学校や立命館慶祥高等学校といったスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の運営指導なども担っている。こうした知見を生かし、プログラミング授業も開発した。
「僕が校長なら、お金や仕事の価値、税金の仕組みなど生活に最低限必要なことを教える以外は、子どもたちに好きなことをやらせてあげたい。そんなふうに学校をつくりたいと思うこともありましたが、学校をつくっても関われる生徒の数はたかが知れています。だったらカリキュラムを広く提供したほうがいいと思い、プログラミングの教材とカリキュラムを開発しました」
今もう1つ実現したいのは、リトライの機会創出だ。海外では失業したら大学でスキルを習得し直すなどの選択肢があるが、日本ではそのチャンスがほぼない。そのため、手始めに「北海道ハイテクノロジー専門学校」と協力し、開発から運営まで学べる「宇宙・ロボット学科」を設立した。すでに21年4月から第1期生が学んでいる。
「ここのカリキュラムはすべて録画してデータ化しており、将来的にはリトライしたい人たちに向けてオンラインで提供できるようにしたい。このほか、福岡大学とも連携し、現役の社会人がリトライできる教育システムの検討も進めているところです」
「知恵と経験と人脈の連鎖」を広げてほしい
同社のもろもろの事業拡大は「すべて知恵と経験と人脈の連鎖」だと植松氏は語る。宇宙航空関連事業が発展したのも、前出の永田教授がいろいろな人に同社を紹介してくれたからだという。そのおかげで同社には複数の実験施設ができて日本の最高権威の学者や研究者が集まるようになり、さらにその研究成果が論文として発表され、世界中から問い合わせが次々とやってくるようになった。
「研究開発支援の採算性はすごく悪い。でも、そこで得た知識や技術が、医療機器やトンネルを掘る機械などの開発依頼に応用できるため、意外と食べていける。最近では、研究に関わった大学生たちが出世して、新しい仕事を持って帰ってきてくれます」


















