コロナ禍で「パリ離れ」が加速するフランスのなぜ 日本と似ている「一極集中」その解消への課題

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なお、医療については、昨年のコロナ禍で遠隔での医師による診療が進められている。人口500人以下の村では医者がいない場合がほとんどだ。コロナ感染でロックダウンが本格化した昨年4月、コロナ感染症の電話相談窓口「Allo Covid」のサービスが開始された。同サービスはAIチャットボットがオペレーターに代わって対応する全自動型電話サービスだ。

さらに患者がさまざまな検査装置が設置されたブースに入り、目の前の画像に現れた医師の指示に従い、体温、血圧、心拍数、酸素濃度などを計り、自分でカメラを用いて喉の奥を撮影したりするサービスもある。データを元に診断結果がブース内でプリントアウトされて出てくる仕組みで、最初から最後まで誰にも合わず、診療を受けることができる。田舎暮らしでは、掛かりつけの医者の所まで何キロも車を運転しなければならないが、村によっては遠隔診療ブースを設置するところも増えている。

EUでも地方への人口移動を推進

EUでは農村部が全面積の44%を占めていながら、70%以上の人々が都市に住んでいる。都市への人口集中は産業化がもたらしたものだが、デジタル化とコロナ禍で状況は変わりつつある。

グローバル化で企業の生産拠点が中国など海外に移転したことで、欧州の地方都市の過疎化は加速したものの、デジタル化は一部のビジネス、それも生産性の高いIT部門を中心に人口拡散を可能にし、必ずしも大都市に住む必要がなくなり、人はより環境に恵まれた「田舎暮らし」を追求する方向にある。

EUは地方への人口移動を少子高齢化対策、環境対策に結びつける決定を下し、欧州議会は都市部と農村間のモビリティへの投資を加速する方針だ。なぜなら、デジタル化で一気に都市機能が不要になるわけではないので、都市と田舎のアクセスを容易にすることは重要だからだ。フランスでブルターニュ地方に人気があるのは、高速列車TGVの存在が大きい。

人口が地方に分散するメリットには、大都市の大気汚染低減や人の密状態回避という公衆衛生上の対策にもつながることもある。それに地方都市の観光開発を進めれば地方経済の活性化をもたらす。教育を受けたスキルの高い人材が大都市に集中したことで格差が生じたわけだが、これもデジタル化の進展で移動せずに専門スキルを持つ人々が故郷に定住できれば不平等の解消にもつながる。

これらを可能にするのは、ワークライフバランスを重視する人々の意識だ。それは欧州では、ほとんどの人が田舎暮らしに憧れ、組織より家庭生活を重視し、都会にしがみつく人はむしろ少ないので問題はない。

あとは企業や自治体が積極的にデジタル化を進められるか。職場で社員を監視するような管理方法をやめ、各自の自主性、結果を出すコミットメントを企業側が施すことや本社機能を地方に移すこともカギになりそうだ。

安部 雅延 国際ジャーナリスト(フランス在住)

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あべ まさのぶ / Masanobu Abe

パリを拠点にする国際ジャーナリスト。取材国は30か国を超える。日本で編集者、記者を経て渡仏。創立時の仏レンヌ大学大学院日仏経営センター顧問・講師。レンヌ国際ビジネススクールの講師を長年務め、異文化理解を講じる。日産、NECなど日系200社以上でグローバル人材育成を担当。

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