他人を妬む人がいるのも仕方がない生物学的理由 進化してもイライラや孤独感は捨てられていない

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嫉妬がよく見られるのは、弟や妹が生まれた上の子です。母親の愛情や食べ物の分け前が減ると、自分の存在をアピールし始めます。時には甘えを見せたり「幼児返り」を起こしたりします。母親もそれに気づき、上の子の甘えに付き合ってあげたりします。

嫉妬をする目的は、自分に来るはずの資源がほかの人へ行ってしまった状態を回復することです。家族などの血縁関係ならば、たがいに助け合って食料などを共有することも多いので、分け前に不満を抱いて嫉妬する効果は大きいです。嫉妬に気づいた人が、再配分してくれます。

動物にも嫉妬に似た行動が見られますが、基本それらは資源をめぐる戦いです。人間のように嫉妬をアピールして、再配分を促す行為はありません。

嫉妬に効果があるのは協力集団の仲間に対して

人間に嫉妬が生まれたのは、嫉妬が有効に働く生活を送っていたからです。約300万年前から数万年前まで続いた狩猟採集時代の人類は、100人程度の小集団で協力活動をしていました。集団のメンバーは一蓮托生の仲間であり、狩猟も採集もメンバー同士が集まって協力して進めていました。大型動物がとれれば、みんなで公平に分けていたのです。

狩猟採集時代の人類は、こうして公平感や平等感を培いました。嫉妬はその裏返しなのです。嫉妬をアピールすれば「あ、公平ではなかったかな」と配分の是正が生じるのです。つまり、嫉妬に効果があるのは、協力集団の仲間に対してなのです。

ところが、文明社会になって、一蓮托生の協力集団は失われてきました。よくも悪くも個人主義の社会になったのです。だから、自分がもらうはずの賞金を誰かが獲得してしまっても、くやしいけれど「後のまつり」です。

ただ、自分と一緒に活動して、たがいに助け合い、教え合ってきた仲間が賞金を獲得した場合は違います。賞金を獲得した人は、その仲間たちと賞金を分け合ったり、賞金をもとに「これまでの支援に感謝する会」を開いたりする必要があるのです。それをしないで「ひとり占め」をしたならば、嫉妬によって圧力をかけることには意義があります。またそれは、道徳的にも妥当な行為です。

ところが今日では、仲間ではない誰かが「一発当てた」といった成功談がSNSなどを通じてわかる時代です。ふだんからその人のSNSを見て「いいね」などと応援をしていると、仲間意識が生まれますが、自分だけの勝手な仲間意識です。そして、その人が成功したとなると、嫉妬が生まれてしまうのです。

こうした嫉妬は、勘違いです。仲間ではないので、再配分は行われません。文明の時代には、嫉妬の意義がある場面はなくなりつつあるのです。

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