「トヨタが車を売らなくなる日」が目前に迫る意味 脱・製販分離で中古車を新車ラインに流す妙技

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顧客が新車購入する際に対面するのは、あくまでも販売店であり、メーカー直接ではない。中には販売店と顧客情報を共通するシステムを有するメーカーもあるが、基本的に顧客情報は販売店に帰属する場合が多いのが実情だ。筆者が自動車メーカー各社幹部らと定常的な意見交換をする中で、そのように解釈している。

このように新車の製造と卸売り・小売りとの間には大きな壁があり、一般的に“製販分離“と呼ばれる。この常識が、前述のKINTO新事業によって崩れる可能性が出てきたのだ。

KINTOのみで販売する特別仕様も用意される(写真:トヨタ自動車)

繰り返して説明するが、KINTOでも新たな取り組みはメーカーが新車を製造した後、メーカー直属企業が資産として新車を保有し、経年劣化した後はリノベーションした中古車として再びサブスク化するという商流サイクルの創出だ。そして、商流の中でのデータ管理を定常的に行う。

こうした新しい商流により計画的な生産体制も可能となり、結果的に生産台数は減少傾向に転じる可能性があるが、メーカーが販売サービスに直接関与することで、メーカーが関わる事業はトータルで拡大し収益性も高まる。さらに、LCA(ライフサイクルアセスメント)の観点でのCO2排出量の管理もしやすくなるという利点がある。

そうなると、困るのは新車正規販売店だ。販売店の事業形態は販売・修理業からサービスプロバイダーへの転換といわれて久しいが、多くの販売店は、いまだに旧態依然とした業態から脱却するための明確な方向性は示すことができていない。

販売は「オンライン」が当たり前に

さらに、販売店にとっては“EVシフトにおけるオンライン販売”という大きな時代の変化にも直面している。

例えば、ボルボは2030年までにグローバルで全モデルをEV化するとし、日本市場では2021年秋発売予定のEVの「C40 Recharge」を完全オンライン販売とし、販売店はそのサポート役にまわると発表した。

また、日産は2021年6月4日にEVの日本仕様「アリア limited」予約販売開始を発表した際、アリアにおいてもオンライン販売を積極的に展開することを示唆している。

国内の予約注文が10日間で約4000台に達したと発表された「アリア limited」(写真:日産自動車)

EVは駆動用バッテリーの経年劣化の管理や充電インフラとのマッチングなど、データ管理の重要性が高い面もあり、オンラインによるサブスク販売との相性がいいと考えられる。

コネクテッド技術の開発とEVシフトによって、自動車産業の製販分離の解消が数年以内に一気に進むのかもしれない。今後の業界動向を注視していきたい。

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桃田 健史 ジャーナリスト

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ももた けんじ / Kenji Momota

桐蔭学園中学校・高等学校、東海大学工学部動力機械工学科卒業。
専門は世界自動車産業。その周辺分野として、エネルギー、IT、高齢化問題等をカバー。日米を拠点に各国で取材活動を続ける。一般誌、技術専門誌、各種自動車関連媒体等への執筆。インディカー、NASCAR等、レーシングドライバーとしての経歴を活かし、テレビのレース番組の解説担当。海外モーターショーなどテレビ解説。近年の取材対象は、先進国から新興国へのパラファイムシフト、EV等の車両電動化、そして情報通信のテレマティクス。

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