「肺活」が今、何より重要だといえる医学的理由 肺の衰えはがん、うつ、認知症の一因にもなる

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肺の衰えは、あきらめるしかないのでしょうか。

答えは、否です。「肺活トレーニング」をすれば、呼吸1回の換気(かんき)量を増やすことができ、血液に酸素を取り込む量を増やし、血中の酸素濃度をアップさせることができます。

換気量とは、呼吸によって出入りする空気の量のこと。安静時の1回の呼吸では平均500ミリリットルの空気が呼吸器の中を出入りしています。このとき注目すべきは、500ミリリットルのうち、およそ150ミリリットルはガス交換に関与しない空気で、この量は「死腔(しくう)量」と呼ばれ、つねに150ミリリットルで一定しています。

解剖学的に死腔とは、呼吸器系の中で肺胞が存在しない部分(鼻から気管支までのスペース)のことを指します。ガス交換に直接関与していない呼吸器です。つまり通常、呼吸1回で500ミリリットルの空気が出入りしても、肺胞に到達するまでに150ミリリットルが失われ、残った平均350ミリリットルの空気が肺胞でガス交換されているわけです。

何歳になっても遅くない! 肺トレで肺を鍛えよう

1回の換気量は、肺活トレーニングによって胸郭(きょうかく)の可動域を広げれば、誰でも増やすことができます。たとえば、1回の換気量が1000ミリリットルに増えれば、死腔量の150ミリリットルを引いて、850ミリリットルの空気がガス交換に使われることになります。

このことが何を意味するかというと、1回の換気量さえ増やせればガス交換に使われる酸素が増え、その結果、血中の酸素濃度も高めることができるということです。

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たとえるなら、換気量を増やすこととは、パソコンのCPUを増やすことに似ています。CPUを増やせばスムーズにパソコンを動かせるように、換気量を増やすことでスムーズに肺が酸素を取り込めるようになるイメージです。多少パソコンが古いものでも、CPUが最新なら、問題なく使うことができます。

それと同じで、肺が加齢によって多少衰えていても、換気量を増やせば、いつまでもたっぷりの酸素を体内に取り込むことができるのです。

脳の衰えを防ぐために「脳トレ」が有効なのと同じで、肺の衰えを防ぐためには「肺トレ」が必要です。『最高の体調を引き出す 超肺活』では、医学的に効果が実証されている「肺トレ」を一般の方にもわかりやすく紹介しています。

「肺トレ」により息を吹き返した肺は、ウイルスに負けない免疫力の獲得、質の高い血液循環への改善、そして自律神経の大幅なパフォーマンス向上に貢献してくれることでしょう。ぜひ「肺トレ」を実践し、大変な時代を生き抜く力としてください。

小林 弘幸 順天堂大学医学部教授、日本スポーツ協会公認スポーツドクター

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こばやし ひろゆき / Hiroyuki Kobayashi

1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任する。自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導に関わる。『医者が考案した「長生きみそ汁」』、『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム刊)などの著書のほか、「世界一受けたい授業」(日本テレビ)や「中居正広の金曜日のスマイルたちへ」(TBSテレビ)などメディア出演も多数。

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