イスマイル・サブリ上級大臣兼国防大臣は、もし州をまたぐ移動を政府が禁止しなかった場合、1日で1万3000人~1万5000人もの感染者数が想定されていたとしたうえで、「政府が州越え移動を禁止しているとき、多くの国民は我慢をしているにもかかわらず、20万人もがルールを破って検問を突破したことに憤っている。警察に嘘をつくことができても、今やそこかしこにいるコロナウイルスに嘘をつくことはできない。結果として、“ハリラヤ祭りに起因する多くのクラスター”が発生し、死者が出ている」と強く述べた。
政府がいかに厳しく取り締まってもその抜け道を探るようにして規則は破られ、結果として感染者数の増加を防ぎきれない現状が浮かび上がる。
終わりが見えない精神的な疲労の蓄積も
「規制疲れ」も要因の1つとして指摘される。昨年3月から5月にかけて、東南アジアで初めての国境封鎖、および厳しい罰則を伴う経済活動の制限を耐えてきた国民にとって、いったんは効果が出たかのように見えた感染が、再三にわたって振り返される現実に、いったいいつ終わりが見えるのかという精神的な疲労は溜まっている。
また、当初の「ロックダウン」に比べて感覚が慣れてきたこともあり、緊張感が薄れ「ニューノーマル」がいわば「ノーマル」となり、規則を破り行動してしまうケースも後を絶たない。「去年の活動制限令に比べて明らかに”慣れ”が生じてしまっています。1年以上も新型コロナウイルスの拡大が続くことを誰しも予想していなかったことから、ロックダウン疲れが起き、先の見えない状況に気分は落ち込むばかりです」と、クアラルンプールで暮らすワンさんは語る。
肝心のワクチン接種率も、各国と比べると出遅れている状況だ。数の確保にも時間を要しており、州ごとに独自でワクチン調達を進めようと政府と交渉する動きも出ている。イギリス・オックスフォード大研究者らのデータベース「アワー・ ワールド・イン・データ(Our World in Data)」の集計によると、5月29日時点でマレーシアでワクチンを少なくとも1回接種した人の割合は5.8%で97位、日本の6.4%(94位)よりもさらに下回る状況だ。
ワクチン接種の予約でも波乱が続く。イギリスのアストラゼネカ製ワクチンは血栓症への懸念が指摘されていることにより、国家接種計画の対象からは外れたものの、任意で希望者を対象に応募が開始されると、申し込みが殺到。5月2日は、3時間で26万8000回分の予約が埋まったほか、26日はわずか90分で30万回分の予約が終了した。
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