失敗する「新規事業」には3つの視点が欠けている 「アイデアと熱意さえあれば」は大きな誤解だ

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起業してみてはっきりとちがいが分かったのですが、起業と企業内新規事業はまったく別ものです。

両者の最も大きなちがいは「オーナーシップ」です。起業家は株を自分でもっていますから、基本的には自分で意思決定ができます。しかし、企業内新規事業の場合、「事業責任者」であっても基本的には一株ももっていません。これは起業家で言えば会社設立時に100%他人に株を譲ってしまってから事業をスタートするみたいなもので、両手両足を縛られて戦うような不自由さがあります。

起業家はたとえ赤字でも資金を調達できる限り事業を続けることができますが、企業では事業責任者がいくら事業に思い入れをもって存続を願っても、会社がつぶすと言えば事業を畳まざるを得ないのです。

また、事業を行うチームのメンバーも基本的には会社からのアサインにより、本人やチームの意思とは別に転属を命じられることもあります。企業の新規事業とはつまり、会社の意思によって、会社のリソースを使ってする、「借り物競争」なのです。

「アートは自分がクライアント」という言葉があります。起業家もまたある程度「自分がクライアント」と言ってよいでしょうが、企業内新規事業の場合、クライアントは自分ではなく「会社」です。ですから企業内新規事業では「期限」と「約束」をしっかり確認しておかなければなりません。

新規事業に必要な「3つの視点」

企業から新規事業の相談を受けた際にすることが3つあります。「事業ミッション」、「事業バリュー」そして「事業フェーズ」をそれぞれ定義することです。これらが明確になり三位一体でないと、事業はだいたい迷走することになります。

一つ目の「事業ミッション」の定義は、いつまでになにをなしとげるか、つまり「期限」と「約束」の定義にあたります。「そもそもなんのために事業を立ち上げるのか?」。

企業でこの質問をすると、第一声では「売上」「利益」という答えが返ってきます。しかし、よくよく議論してみると、実はそれが第一目的ではないケースも多いのです。企業が事業を始める理由というのは「売上」や「利益」の他にも、「ブランディング」、「採用広報」、「経営層の育成」や「組織の若返り」など、たくさんあるのですが、それに優先順位がつかないまま、「なんとなく」事業を始めてしまうケースがとても多いのです。

もっとひどいことに、新規事業をすればこれらの目的がすべて叶えられるという幻想が抱かれているケースもあります。ですが、少し考えれば分かるように、これらのミッションは両立できるものばかりではなく、むしろ背反することのほうが多いのです。

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