日本のワクチン接種が「異常に遅い」呆れた理由 この国に根付く「人間を不幸にするシステム」

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しかも、新型コロナワクチンを認可してもいない段階だから、しっかりした話にはならなかったはずだ。欧米企業の本社は、足元のアメリカ政府や欧州委員会からワクチン供給の催促を受けている。そこへ、買うのか買わないのかはっきりさせなかった日本が急に、閣僚や首相クラスで無理を頼んでくる。普段はわれわれのことを上から目線で扱ったのに──と、彼らは思っていることだろう。

日米関係が重要でも優遇されない

それにアメリカの製薬企業の経営陣は多国籍だ。ファイザーのCEOはギリシャで育ったユダヤ系の人だし、ファイザーと新型コロナワクチンを開発したドイツ・ビオンテックは、トルコからドイツに移住した家庭で育った医師が立ち上げた企業だ。日米関係が重要だから日本を優遇、とはならない。

日本国内には積年のねじれもある。厚生労働省が今回、新型コロナへの対応が遅かったのは、法的根拠のない特例を作って、後でその責任を自分たちだけに負わされてはかなわない、という意識があったことも原因だろう。実際1996年には、当時の菅直人厚生大臣が配下の官僚を裁判に突き出す形となった、薬害エイズ事件のような前例がある。

そして戦後、結核がほぼ撲滅されて、全国津々浦々の感染症対策拠点、つまり保健所を骨抜きにしていたことも、コロナ対策の足を引っ張った。日本では医師の過半が個人医院(診療所)を経営しており感染症には対処できず、大病院でも感染症用の病床や機器だけでなく、担当の医師や看護師も足りない。そして政府債務残高がGDPの2年分以上にも達した今、財務省は感染症対策の予算を簡単には増やせない。

こうして日本は、皆が責任を果たしているようで意味のある結果は出てこない、無責任体制になっている。「人間を不幸にするシステム」なのだ。

河東哲夫/外交評論家。1947年、東京生まれ。外務省入省後、ソ連・ロシア3回、計11年、西ドイツ・ボン、スウェーデン、ボストン総領事、在ロシア大使館公使、在ウズベキスタン・タジキスタン大使を歴任。またハーバード大学、モスクワ大学に留学。2004年、外務省退官。日本政策投資銀行設備投資研究所上席主任研究員となり評論活動開始。東京大学客員教授、早稲田大学客員教授、東京財団上席研究員など歴任。
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