日産自動車、北米事業に光明でも拭えない不安 反転攻勢に影を落とす半導体不足と材料費高騰

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今後も北米再建が順調に進むかどうかが改革のカギを握っている。今夏にはSUV「パスファインダー」やピックアップトラック「フロンティア」などを改良して投入する予定で「北米のラインナップは3分の2が刷新される」(グプタCOO)。ラインナップの入れ替えで商品力を高める狙いだ。

調査会社マークラインズによると、2021年1~3月期における日産の販売台数(推計値)は前期比10.8%増の28万5000台だった。ただ、市場シェアで見ると0.4ポイント増のホンダ(市場シェア8.9%)や1.3ポイント増のトヨタ(同15.4%)がアメリカ・ビッグ3からシェアを奪う一方、日産のシェアは7.3%と変わっておらず、今後投入する新車の“力”が問われる。

アメリカの調査会社オートデータによると、日産のインセンティブの水準は3000ドル台で昨年よりも下がったものの、2000ドル台で推移するトヨタ自動車やホンダよりも高いまま。「インセンティブは結果であり目的ではない」(グプタCOO)というが、質を重視するならばインセンティブのさらなる低下が必要だろう。

中期経営計画の中間目標は未達成

2020年度はリストラ計画に一定の道筋をつけたが不安は残る。2021年度の売上高は前期比16%増の9.1兆円、営業損益はゼロ(持ち分法適用ベース。前期は1506億円の赤字)を想定する。昨年公表した中期経営計画で掲げた2021年度の営業利益率2%(中国合弁会社比例連結ベース)を下回る見通しであったためか、決算発表翌日の株価は売りを浴びて約10%下がった。

大きな要因はルネサスエレクトロニクスの工場火災などによる半導体不足の影響だ。原材料価格の高騰も重なり、上期を中心に減産規模は50万台を見込む。下期以降の挽回生産でその半分は取り戻す見込みだが、新型車の連続投入による反転攻勢をかけようとした矢先にブレーキがかかった格好だ。

ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生シニアアナリストは「日産はこれまでにも値引きに頼る販売体質を変えようと試みてきたが実っていない。(半導体不足などの)逆境の中でもコンスタントに新型車を投入して、しっかりと新車を売り切るというサイクルの改善に地道に取り組むしかない」と指摘する。

「今年度もさまざまなビジネスリスクはあるが、ぶれることなく改革を断行していけば目標を達成できる」。内田社長は自身に言い聞かせるようにそう語った。構造改革では最終年度に当たる2023年度に営業利益率5%の実現を目標としている。仮に供給制約から売上高が計画に対して未達となったとしても、利益率の着実な改善を示していくことが不可欠だろう。

横山 隼也 東洋経済 記者

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よこやま じゅんや / Junya Yokoyama

報道部で、トヨタ自動車やホンダなど自動車業界を担当。地方紙などを経て、2020年9月に東洋経済新報社入社。好きなものは、サッカー、サウナ、ビール(大手もクラフトも)。1991年生まれ。

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