妻に過去の失態を蒸し返される夫が知らない心理 思い出すたびに傷つくから都度謝る必要がある
蒸し返される度に、父は真摯に謝っていたが、ときにため息をついて、私にぼやくのだった。
「過去のたった1回の失言だぞ。俺だって、10回や20回は謝る覚悟だよ。けど、100回も200回も謝らせるのは、ひどいじゃないか」
私は父をなだめる。「お父さん、残念ながら、それは違う。思い出すたびに、女は傷つくの。100回思い出せば、100回傷ついているのだから、100回謝らないとね」
30年目にふっつりと途絶えた理由
その蒸し返しが、30年目に、ふっつりと途絶えたのである。私のお産の日に。
私が産気づいたのは、土曜日の朝である。休日で家にいた夫に電話をかけたのに、何時間経ってもいっこうに姿を現さない。なんと、うっかり二度寝したのだという。こっちは命がけで苦しんでいるのに、二度寝って……絶句。
そのおかげで、私の父が、私の背中をさすり続けることになった。陣痛の波が襲う度に、お腹が痙攣して、娘とまだ見ぬ孫が苦しむ。延々と続くそれに、とうとう父が母に言ったのだった。「お産っていうのは、本当に大変なんだなぁ。あのとき、お前のそばにいてやればよかった。もっともっと優しくすればよかった」と。
母は、ほろりと涙を流して、以後、二度と蒸し返すことはなかった。
蒸し返されたときに謝るのでは、〝利子〟を払っているにすぎない。〝借金〟は永久になくならない。比較的しあわせなときに、蒸し返されたわけでもないのに、自発的にしみじみと謝る……それこそが極意かも。このとき父は、〝元本〟を返したのである。
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