企画が通らない人のひどく残念な時間の使い方 「熱い思い」以上に人の心をつかむ武器はない

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コンテンツに立ち返ることをせず「常連の僕が言えば普段は取材に応じないレストランが出てくれるのに、その価値を上司は全然わかってくれない」と愚痴りながら、上司が好きだと言っていた店の資料を増やしたり、名店リストの写真を撮り直したりする。そんな企画の練り直しは時間の無駄です。

多かれ少なかれ、企画が通らない人にはこういう傾向があります。

「朝のライスカレーは遅筋に効く」というコンテンツができて企画が通れば、それこそ「熱い思い」のままに、次はコンテンツをどう見せるか詰めていけばいいのです。筋金入りのカレー好きなら、どのアングルの写真がぐっと来るか、どの店をセレクトするか、腕の見せどころです。「熱い思い」があふれていれば、必ず読者に届きます。反響を呼び、読者からリクエストが寄せられ、(新たなn=1ですね)「筋肉に効くカレーを自分でつくろう」企画など、第二弾、第三弾がうまれるかもしれません。こうしてコンテンツは育っていきます。

「熱い思い」がなければ大ヒットしない

逆にいうと、「熱い思い」がないまま発信するコンテンツは決して大ヒットにはなりません。上から振られた受動的な企画や思いつきレベルで通ってしまった企画を、「熱い思い」がないまま進めてしまうと、ほぼ間違いなく失敗するか、せいぜい無難なものになるだけです。そういった企画も、必ずコンテンツそのものに立ち返るべきです。

たとえ受動的な企画でも、コンテンツに向き合い、ユーザーに向き合い、がっつりコンテンツをつくるうちに、どこかで「熱い思い」を持てるようになります。そこまで、じっくり考えてみましょう。

『なぜか惹かれる言葉のつくりかた』(サンマーク出版)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら

もちろんコンテンツについて徹底的に考えるのも、注意深くn=1のリサーチをするのも、かなり時間がかかります。経験のある人も多いと思うのですが、考え続けていたら、週末に子供と遊んでいたときにアイデアを思いついたり、プライベートで友達と話をしていて「あ、こんなニーズがあるんだ」と気づいたりして、公私の境があいまいになるでしょう。

それでも、企画が通らないと愚痴を言い続けたり、上司の顔色を伺うストレスに疲れたり、通りそうな企画ばかりつくるようになったりして、ついにはモチベーションを失うよりは、ずっと健全ではないでしょうか。企画を立て、それが通り、実行していく楽しさは、他に変えがたいものがあるからです。

「企画が通らない」と腐ることがあったとしても、何度でも「何が問題なんだ」「どんなニーズがある?」「こんなアイデアは」とめげずに繰り返してみてください。誰よりも厳しいユーザーの視点で自ら企画を検証すれば、企画の質は跳ね上がります。

能勢 邦子 『anan』元編集長、『Hanako』『POPYE』元副編集長

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のせ くにこ / Kuniko Nose

2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した『ザ・トレーシー・メソッド』はミリオンセラーに。現在はコンテンツディレクターとして、編集・執筆・WEBメディアのディレクション、出版プロデュース、コンテンツマーケティングを行う。学習院秦々会「学習院さくらアカデミー」講師。コンテンツのつくりかたについては、著書『なぜか惹かれる言葉のつくりかた』(サンマーク出版)で公開。

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