菅首相「五輪ファースト」に募る不安と不信 背景に五輪開催と次期衆院選にらんだ再選戦略

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最後の砦ともいえる自衛隊の投入は「元防衛相の河野氏の発案に菅首相が飛びついた」(政府筋)とされる。ただ、与党内には「頼りにならない厚労省や医師会への露骨な当てつけで、政治的な賭け」(閣僚経験者)とみる向きも少なくない。

菅首相がワクチン接種にこだわるのは、「五輪開催だけでなく、次期衆院選や自民総裁選をにらんだ再選戦略」(自民長老)とみられている。官邸サイドは「高齢者接種がスピードアップすれば国民に安心感が広がり、五輪開催への機運も盛り上がる」と期待する。

しかし、緊急事態宣言発令にもかかわらずコロナ感染拡大は収まる気配が見えない。大型連休初日の29日に東京都が発表した新規感染者数は約3カ月ぶりに1000人の大台を超えた。大阪も1000人台が続き、福岡など大都市でも過去最多が相次ぐ。

焦点は「誰が五輪中止を言い出すか」

大型連休中は、医療機関の休業などもあって検査数が減少するため、新規感染者数も減る可能性がある。ただ、感染者数が増加し続けて1000人台となった東京は「よほどのことがない限り、連休明けから再び感染拡大するのは確実」(感染症専門家)とみられている。

政府は連休明けの5月6日か7日に対策本部を開催して、11日が期限の緊急事態宣言の延長の可否を決めなければならない。その時点で東京などでの感染拡大が続いていれば「最低でも月末までの宣言延長や首都圏全体への発令を余儀なくされる」(閣僚経験者)のは避けられない。

菅首相は30日、ワクチン接種を加速するため、日本医師会や日本看護協会の代表と首相官邸で会談し、「最大の課題は接種体制の確保だ」として、全国的な協力を要請。併せて接種に対する財政的な支援の大幅な拡充なども約束した。

しかし、こうした菅首相の動きとは裏腹に、政界ではここにきて誰が五輪中止を言い出すかに注目が集まる。「菅ファーストにもみえる五輪強行開催に、堂々と異議を唱える実力者が出現すれば、一気にポスト菅政局の主役になる」(自民長老)という読みからだ。

もちろん、菅首相周辺は「そんな話をするのは政治家としても外野ばかり。まさにためにする話」と一笑に付す。ただ、ワクチン接種加速でもコロナ感染が収まらなければ、「与党内でも五輪中止論が主流となる」(自民長老)ことは否定できない。

菅首相は大型連休中も休日返上でコロナ対策に没頭する構えだが、政権の命運が懸かる「ワクチン一本足打法」の前途は険しさが増すばかりだ。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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