菅首相「五輪ファースト」に募る不安と不信 背景に五輪開催と次期衆院選にらんだ再選戦略

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大会組織委が五輪開催に合わせて約500人の看護師派遣を要請したことに対して、丸川珠代五輪担当相は27日、「まず今後(サポートが)必要になるのかどうかを、東京都に明らかにしていただきたい。具体的なことについての考えがまったく聞こえてきません」と不満を表明した。

これに対し小池氏は「すでに実務的には詰めている。安全・安心な大会にすべく、それぞれが力を出していくということだ」などと反論。都の関係者も「担当大臣として自覚に欠ける」と反発した。

小池、丸川両氏は「前回の都知事選以来、不仲が解消されていない」(自民幹部)とされるが、「本来、協力し合う立場のトップ同士のいさかいは、五輪中止論を加速させかねない」との批判が多く、政界には「五輪中止の布石では」(野党幹部)とのうがった見方すら広がる。

行き当たりばったりのワクチン接種

こうして五輪開催への懐疑論が一段と拡大する中、菅首相が打ち出したのがワクチン接種を加速させるための対策だ。菅首相は宣言発令を決断した23日夜の記者会見で、高齢者のワクチン接種について「7月末までに、2回の接種を終えられるように取り組む」と発言して関係者を慌てさせた。

菅首相は27日にも突然、岸信夫防衛相に大規模接種センターを都内に設置するよう指示した。具体的には千代田区にある大手町合同庁舎3号館にセンターを設営し、5月24日から約3カ月間運営する方針とされる。これに併せて、河野太郎ワクチン担当相は同センターでモデルナ社のワクチンを使用する考えを明らかにした。

政府はモデルナ社のワクチンを5月中旬にも承認し、すでに契約済みの5000万回分を、感染拡大が際立つ東京や大阪で集中的接種を実施する計画とみられる。同社製ワクチンの一部は30日午前、ベルギーからの航空便で関西空港に到着した。これにより、大規模センターでの接種などが実現可能となる。

菅首相は都内の医療機関への負担を避けるため、医師や看護師の資格を持つ自衛官を対応に当てるよう指示したとされ、東京での高齢者などへのワクチン接種は急加速する可能性が出てきた。ただ、菅首相は当初、6月中の高齢者接種終了を求めていたとされ、「突然の前のめりの指示は焦りの表れ」(自民長老)との指摘もある。

政府関係者によると、都内の同センターでの接種は東京、神奈川、埼玉、千葉の4都県の高齢者を主な対象にするとされる。これについて、立憲民主党の福山哲郎幹事長は27日、「唐突感がある。行き当たりばったりとの危惧を持たざるをえない」と指摘した。

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