本当に日本より充実?欧州鉄道のバリアフリー 古い駅は対応できず、代わりにバス整備の例も
フィンランド在住17年のライター、エッセイストの靴家さちこ氏によれば、フィンランドでは医療関係で移動する場合に限り、前日14時までに予約することでタクシー代への補助が出るそうだが、これが意外にもルーズで、きちんと確認しなければ忘れていたり、平気で時間に遅れて来たりすることもあるそうだ。
もちろん、高い税率と引き換えに充実している社会サービスは多々あるが、この話を聞けば車いす利用やバリアフリーに関して「福祉の充実した国家」という、北欧地域に抱いていた「究極の理想社会」というイメージが幻想だったと感じる人も多いことだろう。
北欧以外の各国も、いわゆるサポートが必要な場合は最短でも3時間前までに事前連絡が必要で、無人駅でのサポートはしていない国がほとんどだ。大きな駅でも必要な人員をすぐに揃えられるほど人手が多くないことに加え、地方の無人駅の場合はサポート係を派遣するだけで何時間も要するような場所が多く、車で移動するほうが合理的という理由による。
ホームの高さや施設の古さもネック
ヨーロッパ各国の鉄道でもう1つ大きな問題があるとすれば、ホームの高さがまちまちで、列車のステップの位置とまったく合わない点だ。日本のように車体の床の高さにきっちり合わせた高いホームはまれで、ブロック1個分程度の高さしかない駅もある。低床車両を導入している国も多いが、たいていは駅ごとに高さがバラバラなので、結局段差が生じてしまう。
この場合、とくに無人駅でのサポートは期待できないが、引き出し式スロープで対応可能な場合は、運転士が下車してスロープを設置することはできる。だが、駅に車いす対応のスロープやリフトがあるかどうかは別の問題だ。車両自体の床を低くする低床式車両とは逆に、車両の高さまで昇降するリフトを用意している国もあるが、この利用には事前予約が必要とされる。
地下鉄のように、利用の際にほぼ必ず段差がある交通機関では、地上からホーム階までエレベーターや昇降装置が設置されているところが多い。だが歴史が古い都市では設置されていない駅が多い。構造上設置できないのだ。
英国の首都ロンドンに地下鉄が開業したのは、日本の鉄道より前の1863年だ。とくに1890年以降に建設された、大深度地下を通過する「チューブ」と呼ばれる路線は、まるでモグラやアリの巣かと思うほど複雑に入り組んでおり、その後建設された新しい路線や上下水道を避けながら新たにエレベーターを設置することはほぼ不可能である。
皮肉なことに、建設年代が古い都心部ほどエレベーターが設置されている駅が少ない。日本で言えば銀座や日本橋に匹敵する繁華街のピカデリーサーカス駅にも、一切のバリアフリー設備がない。
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