「海外ルーツ持つ子」増えた日本が知るべき現実 養育放棄、貧困、いじめ・・・困難に直面する若者

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日本語版のエッセイ集「父の国・母の国をめぐる旅-伝えたいジャパニーズ・フィリピーノの物語」は昨年9月に完成した。エッセイの執筆から撮影、翻訳まで関わった田中さんは、自分のこれまでをこう振り返る。

「フィリピンから日本に来た当初、それまでのように自分の力を出せなくなり、自信を失いました。その後もいくつもの壁にぶつかりましたが、たくさんの人に支えられ、今の私があります。JFCネットワークとの関わりをきっかけに新しいJFCの仲間ができ、その輪のおかげで自分の能力を開花できたこともうれしいです。

お世話になった方々にはただただ感謝の気持ちでいっぱいです。今度は私自身が、以前の私のように大変な環境にあっても自分を確立しようと努力している人々の力になることで、恩返しできたらと思います。また仲間たちとも何かをつくりたい、例えば、絵本や映像を使ったストリーテリング。私たちの生きた証を後世に残していきたいです」

不当な条件で働かされるケースも多発

JFCネットワークの歴史は既に四半世紀を超す。この間、さまざまなことがあった。前述のように、日本国籍を取得して来日するJFCはこの10年で増加した。日本に住む父親を頼れない彼ら彼女らは、人材派遣会社を利用し、日本語もよくわからないまま来日することが多い。

そうした結果、不当な条件で働かされるケースも多発した。それでも多くのJFCが日本に来ることを選んだ。

伊藤さんも以前は書類の上でしか知らなかった青年たちと直接会い、話をする機会が増えていく。誰もが日本語の習得やフィリピンとの生活のギャップに戸惑い、時には差別も経験しながら、日本での居場所を見つけようとしていた。

伊藤さんは語る。

「子どもたちが大人になり、自分の考えを言葉やさまざまな表現手段で伝えられるようになったことが頼もしいです。彼ら彼女らのような当事者が声を上げていくことが、本当に多様性があり、誰もが住みやすい社会に変えていく力になると思います。JFCも100人いれば100通りの物語があります。一人一人の物語をいろんな人に知ってもらいたいです」

取材=野口和恵(ジャーナリスト)/フロントラインプレス(Frontline Press)

Frontline Press

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「誰も知らない世界を 誰もが知る世界に」を掲げる取材記者グループ(代表=高田昌幸・東京都市大学メディア情報学部教授)。2019年5月に合同会社を設立して正式に発足。調査報道や手触り感のあるルポを軸に、新しいかたちでニュースを世に送り出す。取材記者や研究者ら約40人が参加。スマートニュース社の子会社「スローニュース」による調査報道支援プログラムの第1号に選定(2019年)、東洋経済「オンラインアワード2020」の「ソーシャルインパクト賞」を受賞(2020年)。公式HP https://frontlinepress.jp

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