「海外ルーツ持つ子」増えた日本が知るべき現実 養育放棄、貧困、いじめ・・・困難に直面する若者

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JFCネットワークは設立20周年を迎えた2014年、「ジャパニーズ・フィリピノ・チルドレンとして生きる私の人生」をテーマにしたエッセイコンテストを企画した。日比ルーツを持つ若者を対象に広く募り、集まったエッセイは両国から31編。その後、多くの若者が翻訳に関わるなどして、昨年、書籍として刊行された。

コンテストの審査員を務めた日本在住のフィリピン人男性のジャーナリスト、レイ・ベントゥーラさんは応募作品の一つ一つを「包み隠すことなく正直に書かれた作品」と評価した。

「ある女性は、お父さんがフィリピンに来なくなり、精神的な問題を抱えたお母さんのもとで育ったことをありのままに書いています。彼女は認知を得て、日本国籍を取ってお父さんに会えることを期待して日本に来たけれど、会ってもらえません。ほかにも同じような経験を書いている人がたくさんいます。

お父さんは自分の子どもに、どうして会わないんでしょう? 人として信じられないと思いました。でも、子どもたちはお父さんに対して怒っていない。大好きだというのが伝わってくるし、怒りを乗り越えて、自分の道を切り開こうとしている。すごいことです」

書き手とバブル全盛期に生まれた子たちが重なった

バブルの全盛期に日本に来たベントゥーラさんは、一時期、建設現場で働きながら横浜の寿町で生活していた。周りにはフィリピン人女性が大勢いて、JFCがたくさん生まれていた。その子たちと書き手が重なったと言う。

「日本でフィリピン人のお母さんと2人で育った男性は、小さいころ、ホステスをしていたお母さんが働く店に毎晩連れられて行き、控室で同じ年ごろの子どもと遊んでいたと書いています。子どもをそんな所に連れていくなんて、と思う人もいるでしょう。でも彼は友だちと遊んだことを楽しげに書いている。

夫も両親も側にいないなかで、お母さんが何とか生き抜いて子どもを育てようとしていたことも、ものすごく伝わってきます。たぶん、僕が取材して書いても、こうはならない。生きた経験をしている本人だから書ける」

エッセイはたくさんの人に読まれるべきだと考え、ベントゥーラさんは伊藤さんに書籍化を提案し、本作りは動きだす。ベントゥーラさんは書き手とやりとりを続けるうち、JFCの特別な面に気づいた。

「どの子もいろいろなことを知りたい、学びたい気持ちがとても強いんです。これはJFCが生まれながらの『ハイブリッド』だからです。日本で日本人同士の親のもとに生まれた子だったら、日本語しか話せなくてもそれでいいと思うでしょう。

でもお父さんとお母さんの国が違うと、自然と二つの言語や文化に興味を持ちます。2つの国に適応しようとすると、その分、失敗も経験します。自分は中途半端だと感じる場合もあるかもしれません。でも二つのルーツがあることは、それ自体がとても魅力的なことだと思います」

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