まずは、3つのお見合いを組んだのだが、最初の2つは、ご縁がなかった。1つ目は女性からのお断り。2つ目は、互いにお断り。そして、3人目にお見合いしたのが、このたび成婚を決めた桃子(仮名、44歳)だった。
桃子は都内から電車で2時間近くかかる地方都市に住んでいた。誠一は、そこまでお見合いに出向いたのだが、お見合いを終えた誠一が、がっかりした声で言った。
ケーキを半分しか食べなかった
「写真どおりのかわいらしい人でしたけど、ご自身のことをほとんどしゃべらなかったし、ケーキセットのケーキも半分しか食べなかった。僕は、遠方に出向いたのでお腹が空いていたから、スパゲティを頼んでペロリと平らげてしまって。そんな僕をじーっと見ていたんです。たぶん、お断りがくると思います」
ところが、その夜に桃子の相談室からは、“交際希望”がきた。これは後日談なのだが、1人暮らしの桃子は、前の晩の夕食に1人鍋をしたのだが作りすぎてしまい、残っていた鍋を捨ててしまうのがもったいなくて、出かける前に無理して食べて、お腹がパンパンの状態でお見合いに行ったのだった。気を使ってケーキセットを頼んでくれた誠一の優しさがうれしかったが、お腹がいっぱいで、どうしても食べられなかった。
一方で、お見合いの席でスパゲティを頬張る彼を、「こんなふうに、おいしそうに物を食べる男性っていいな」と思って見ていたというのだ。
こうして交際に入ると、電車で2時間の距離をものともせず、彼女に会いに誠一は本当によく通っていた。そのつど進捗状況を報告してきていたが、交際は順調そうだった。
そして、年明けにはこんなLINEがきた。
「年末年始は私が毎日出勤で、彼女に会いに行くことができなかったんです。だから、31日から1日の年跨ぎは、電話で話しながら一緒に年を越しました」
この報告を聞いたときに、「この2人は成婚するな」と確信した。
そこから2月3月と関係を育み、プロポーズを決意したのは、3月27日のことだ。
誠一は、結婚する相手ができたら、一緒に訪れてみたい場所があった。かつて大学の学舎があった場所。今は移転してそこに大学はないのだが、彼にとってそこは、自分を大きく成長させ、羽ばたかせてくれた思い出の地だった。
「夜景のきれいなレストランも考えましたが、そこよりも、昼間の満開の桜の木の下にしました。桜が満開になるのは、年に1回のこと。私の人生の思い出の地の一番きれいな景色の中で、一生に一度の決意を伝えたかったんです」
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