世界2大鉄道メーカー、小さくない「合併」の代償 市場寡占避けるため手放さざるをえない製品も

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パリ司法裁判所はSNCFとRATPに対し、こうした契約後の調達条件変更などを停止するよう命じたが、それに対し両者が控訴するなど問題は複雑な方向へ向かっていた。

ボンバルディアが受注したパリのRER-D/E線用新型2階建て車両。受注額が低かったためボンバルディアに損失をもたらしてしまった(筆者撮影)
ボンバルディアが受注したパリのRER-D/E線用新型2階建て車両(奥)。手前はアルストムの新しいプラットフォーム「コラディア・ストリーム」を使用したオランダ鉄道向け新型車両ICNG(筆者撮影)

アルストムによるボンバルディア買収が完了したことで、状況はさらに複雑化することになった。ボンバルディアの契約はそのままアルストムが引き継ぐことになったが、契約書を確認した後、アルストム側は改めて、この契約については再交渉したいと申し出た。その理由は前述の価格面に加え、技術面においても大きな懸念があるというものだった。

アルストムの会長兼CEOのアンリ・プーパルト=ラファージュ氏は、「契約金額は、ボンバルディアが損失を出している(2021年末の営業を目指してテスト中の新型車両)RER-NGよりもさらに20%も低い」「CAFが提供する予定の台車は技術的問題を抱え、すでに供給されたブラジルの地下鉄では2年間の運転休止を伴う大問題となった」と語っており、再契約は譲れない姿勢を示した。アルストム側はSNCFとRATPに対し、CAF抜きで会議の場を設けたいと打診しており、価格面に加えて技術的に不安のあるCAF製品を排除し、すべて自社製に切り替えたい意向を示すものと考えられる。

対してSNCFとRATPは、ボンバルディア=CAFコンソーシアムに対する契約は継続されていることを確認し、「ボンバルディアを買収したアルストムは、本契約とコミットメントをすべて引き継いでいる」と譲らない姿勢だが、車両の老朽化が進んでいることから速やかな問題解決を必要としている。新型車両への置き換えは2024年には開始される予定であったが、この期限内には不可能になるとRATPは述べており、問題が長引けば納入はさらに遅れることになる。

世界メーカー3位に日立が浮上

さて、2社が合併した後の各鉄道メーカーの年間売り上げの最新シェアについて、現地ニュースが興味深いデータを掲載した。1位のCRRCは揺るがないものの、アルストム+ボンバルディアが2位に浮上した。ここまでは容易に想像できるが、3位にはシーメンス・モビリティと並び、なんと日立製作所が急浮上したのだ。

つまり2021年のビッグ3ならぬ「新ビッグ4」とは、「CRRC・新生アルストム・シーメンスおよび日立」ということになる。上位3社の顔触れは基本的に変わらないが、ついにそこへ肩を並べるに至った日立製作所の今後にも大いに期待したい。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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