キューバ「自国ワクチン5つ開発中」という衝撃 ワクチン接種希望する観光客の誘致にもなるか

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縮小

キューバで複数のワクチン開発が進んでいることに対して、先進国からも「驚くべき成果」という声が出ている一方で、長引く不況によって国内の医療体制は乏しい状態になっているとの指摘もある。

例えば、キューバの独立系の電子紙「14イメディオ」(3月10日付)は、同国における医薬品不足の現状を紹介している。報道によると、ある女性の息子は病院や薬局で抗生物質を手に入れられず、指の切断を余儀なくされた。

この女性は取材に対して、「わが国は医療では強力な国だと政府は言っている。しかし、抗生物質すら供給できない」「私は処方箋を変えてもらうように病院に三度行った。変えてもらった薬も見つけることができなかった」と語っている。

これに対して、保健省医薬テクノロジー部のエミリオ・デルガド部長が、医薬品の不足はこの先1年は続くと指摘し、「財政難で基礎的医薬品しか用意できない」と述べたとしている。

バイオ産業を世界に「売る」チャンスになるか

キューバは1990年代にソ連が崩壊してから経済が大幅に後退。一時期は、隣国ベネズエラから原油を低価格で手に入れていたが、ベネズエラ経済が苦境に立たされてからは、ベネズエラからの支援も受けられなくなった。オバマ政権時にアメリカとの国交が正常化してからは、観光業が浮上したが、トランプ政権時にはこれも縮小。昨年からの新型コロナウイルスによるパンデミックで、観光業はさらに厳しい状況にある。

こうした中、ワクチン開発は、「キューバにとって、人道的支援の意義があるうえ、ウイルスを抑えることが証明できれば経済にとっても大きな意味がある」と、キューバ事情に詳しいカリフォルニア州立大学サンディエゴ校のリチャード・フェインバーグ氏はニューヨーク・タイムズ紙に語っている。

「ワクチン販売の収入を得ることができるだけでなく、キューバの製薬やバイオ分野の評価を上げることができれば、ワクチン以外の医薬品も販売できるチャンスが出てくる」(フェインバーグ氏)

困窮するキューバ経済にとって、ワクチンは新たな起爆剤となるだろうか。

白石 和幸 貿易コンサルタント

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しらいし かずゆき / Kazuyuki Shiraishi

1951年生まれ、広島市出身。スペイン・バレンシア在住40年。商社設立を経て貿易コンサルタントに転身。国際政治外交研究も手掛ける。著書に『1万km離れて観た日本』(文芸社)。

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