インフレターゲットで日本経済は救えない
以前より厳しさを増して、日本にデフレが戻ってきた。2009年第4四半期のGDPデフレーターは1年前と比べて2・8%低下した。しかし、菅直人財務大臣は、前任者たちと同様に、日本銀行にデフレ解決の責任を負わせている。同大臣は、デフレは日本の長期にわたる景気低迷の根源であり、中央銀行が“インフレターゲット政策”という魔法の杖を持っているかのように語っている。
だが、インフレターゲット政策は日本では機能しないだろう。デフレの主因は金融刺激策が不十分であることではなく、需要が低迷し、“GDPギャップ”が広がっていることにある。現在、需給ギャップはGDPの約7%に達している。需要が弱いと物価は軟調になる。過去25年間、若干のラグがあったが、GDPギャップと物価動向の間に非常に高い相関性が見られた。
10年前、マネタリストたちは量的緩和をすればデフレを克服できると力説していた。日銀は量的緩和を試みたが、政策は失敗に終わった。通常、名目GDPと通貨供給量は並行した動きを示す。だがデフレは、その結び付きを断ち切ってしまった。1995年以降、日銀はマネタリーベースを115%増やしたが、名目GDPは8%低下した。
量的緩和政策が失敗したとき、その政策の支持者たちは、「量的緩和政策とインフレターゲット政策を同時に実施していれば、政策はうまく機能したはずだ」と主張した。さらに、「日銀はインフレ目標を、たとえば2%に設定し、目標達成まで通貨供給を増やし、金融資産を購入すべきである」と訴えた。
一般的に、インフレターゲット理論は次のように説明される。日本の消費者は物価下落を予想し、消費を先送りしている。そのためデフレが深刻化している。日銀がインフレ高進の予想を抱かせるようにすれば、消費者は消費を増やし、インフレ高進という予言を自ら実現することになる。しかし、これらの仮説は間違っている。それぞれの主張に一つずつ反論してみよう。