行司が明かす、知られざる「相撲列車」の舞台裏 体が大きくても、大移動のときは1人1席が原則

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力士たちは、最後部座席を除き座席をリクライニングすることはありません。それが暗黙のルールになっているのです。前の人に座席を倒されたらどれだけしんどいかを、身をもって知っているからです。

身体を縮めながらの旅路で、特に東京―博多駅間の長時間移動ともなれば、それだけでも大変です。ゆったりと着席し、自分の好きな時間に自由に移動したければ、強くなればいいのです。

十両に昇進してはじめて関取と呼ばれる地位につきます。十両以上の関取衆には新幹線代(グリーン車料金)が日本相撲協会から各個人に支給されます。大移動の相撲列車に乗車しなくても済みますので、少しでも早く出世して関取になる以外、この状況を抜け出すことはできないのです。

完全貸切の団臨では、ステテコ姿

大移動とは違い、地方巡業で利用する団体臨時列車は完全に貸切となります。関取衆はのびのびと、付け人として帯同している若い衆も、貸切の車内ならばある程度はゆとりを持って座ることができます。

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転換クロスシートも上手く活用できます。仲間同士向かい合わせで座って脚を伸ばす力士や、空いたスペースにスーツケースを重ね、その上にバスタオルを敷いてトランプやUNOなどのカードゲームに興じる力士もいます。

長旅に備えて持参した段ボールを、通路に敷いて寝ている力士もいます。

夜行列車ともなると、宴会を始める力士の姿もあります。ポケット瓶のウィスキーを片手に、チビリチビリとやっていたりします。私は、札幌駅発の団臨で本州に向かうとき、白鵬関から「よかったら食べてください」と、寿司やオードブルがたくさん入った折詰めをいただいたことがあります。

付け人の力士は、乗車後直ちに自身が付いている親方衆や関取衆の元へ駆け付けます。飲み物やおしぼりなどの身の回り品を届けて、関取の着物や帯を解き、素早くたたみます。

車内ではほとんどの力士はステテコ姿で過ごしています。貸切の相撲列車は力士にも好評です。特急臨や急行臨など、他の定期列車に比べれば速達性は欠けるものの、日々の移動はバス移動ばかりで、窮屈な車内で移動時間平均3時間以上、身動きがとれません。足腰に故障や不安を抱えている力士は、毎日の移動で疲労が蓄積されていきます。その点列車内でしたら、足も伸ばせますし、お手洗いにも自由に行くことができます。

これが新幹線1編成貸切ともなれば、速達性もぐんと向上し、さらに快適性が向上、移動の質そのものがよりよいものになります。

木村 銀治郎 幕内格行司

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きむら・ぎんじろう / Ginjiro Kimura

1974年生まれ。本名糸井紀行、旧姓遠藤。幕内格行司。1990年3月場所初土俵。2014年11月場所幕内格昇進を機に三代・木村銀治郎を襲名。土俵上のさばきのほか、大相撲の魅力を伝えるべくテレビやラジオ、雑誌などで活躍、講演活動なども行う。監修に『大相撲語辞典』(誠文堂新光社)。

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