「砕け散るところを見せてあげる」映画化の背景 人気小説の熱量をスクリーンを通して伝える

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

そしてもうひとりの主人公となる濱田清澄は、「悪を見逃さない」「自分のためでなく人のために戦う」「絶対に負けない」というヒーロー3カ条を胸に、玻璃へのまっすぐな思いを貫いている。そんな清澄を演じた中川も「きっと年を重ねたら忘れるであろう10代の気持ちだったり、大人と子どものはざまの瞬間、あのときにしかできなかったことを監督に切り取っていただけた、自分にとって大切な宝物のような映画」と、本作に対する思い入れの強さを明かす。

全部の歯車が合った

またSABU監督も二人の芝居に魅了されたという。3月1日に行われた本作の完成報告舞台あいさつの場でも「原作もすばらしい。キャストもすばらしい。全部の歯車が合ったという自信があります。撮影した季節もそうですし、年齢もそう。あの当時の玻璃と清澄の美しさは、あのタイミングでしか出せなかった気がします」と誇らしげに語っていた。

一方、原作者・竹宮ゆゆこは、完成した映画を観て、以下のコメントを寄せている。

「この小説を書きながら頭の中にあったのは、無力で未熟な少年と少女が絶対に失いたくないものに出会い、それを守るために自分という命のエネルギーを燃やし尽くす、その一瞬の輝きを、この世に描き出してみたいという思いでした。きっと美しいだろうと思ったのです。ただその輝きは、美しくはあっても痛々しく、そして正しかったわけでもなく、彼らの未来をある意味で汚し、損ない、奪いもしました。

出来上がった映画を見て、大きなスクリーンいっぱいに銀河が輝いた時、私はその美しさを前にただただ圧倒されていました。夢中で見入ってしまい、息をするのも忘れました。そして、原作の小説にも映画の脚本にも書かれていない何者かの声を、確かに聞いた気がしたのです。『それでも立ち向かったんだよ』、と。『弱かったし、傷ついたけど、それでも負けはしなかったよ』、と。

本当にそうだったね、と心の中で答えました。ただそれだけの、不思議な、短いやりとりでしたが、私にとっては、物語の芯の部分のすべてを大きく開け放たれたように感じられた瞬間でした。明るく、そしてとてつもなく強いものを、声の主は未来につないで見せてくれたのです」

愛は絶望を救ってくれるのか。作者が語る“一瞬の輝き”とは何なのか。そして「砕け散るところ」とは何なのか。本作は、そんな命題を真摯に問いかけており、それゆえに鑑賞後に深い余韻を残す。

(文中一部敬称略)

壬生 智裕 映画ライター

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事