あまりに厳しいVAIOの船出 ファンド傘下での先行きは五里霧中

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関取高行社長(撮影:風間仁一郎)

関取氏は、VAIOに残った240人が、ただの240人ではないと強調する。「安曇野にいる開発と生産のエンジニア。優秀な彼らの能力を活かすために、選択と集中を徹底する」。

まず、カッティングエッジを求める国内のVAIOファンをターゲットへと絞り込めることで、ワールドワイドの幅広いユーザーに、VAIOを届ける必要がなくなった。このため、市場トレンドに深く根ざし、新しい流れに対して素早く対応できる組織となり、大胆な選択と集中を行うことで、他メーカーにはない価値を創出することに集中して突き進む。

言い換えれば、他メーカーの商品と並べて悩み、価格を比べながら選ぶ商品ではなく、指名買いで選んでもらえる製品を作ることだけに集中していくということだ。企業ユースも意識してVAIO Fit 15Eをラインナップにそろえているが、VAIOの本質はそうしたボリュームゾーンではないですよ、これからは”VAIOでなければ欲しくない”と思えるような製品に特化していきますよ、ということだ。

関取氏はVAIOの黒字化に関して「小さな会社ですから、黒字にしなければやっていけません」と前置きした上で、パソコンの本質を追求した上で+αの価値を提供する商品作りを進める。その上で、これまでVAIOを愛してくれてきた顧客に対してしっかりと向き合って、より良い製品を追求することに集中した」と話し、販路についても、「まずはVAIOの価値を理解してくれているファンとのつながりを重視した選択をした」という。

むろん、将来はより幅広い販路開拓を見据えているというが、まずはしっかりとファン層との結びつきを強めることを選んだことになる。もっともVAIOファンとの距離が近い代理店がSMOJだったと言い換えることもできるだろう。

部品調達コストが上昇するおそれ

また黒字化を図る上では、調達力低下に対する対応も必要不可欠となる。生産規模は従来の1/10以下に落ちてしまい、差異化部品の調達が困難になったり、あるいは標準部品の調達コストにも影響するかもしれない。

関取氏は「ODMからの標準部品の調達と、差異化部品の調達。この使い分けをきちんとやっていく」と話す。また、ソニーの部品調達部門出身の赤羽良介副社長は「サプライヤーと、いかにWin-Winのシナリオ作るかが重要。もちろん”数”はそのひとつのファクターだが、別の要素もある。技術力のあるサプライヤーは、最新技術をいち早く立ち上げることで訴求したいという気持ちもある」と話し、すでに新技術の立ち上げをともにするサプライヤーを確保していることを示唆した。

さらにWindowsパソコン以外のジャンル開拓についても言及。ソニー時代はタブレットやスマートフォンをVAIOブランドで作ることはできなかったが「優秀なエンジニアを、どう効率的に活用するかがもっとも重要。あとは経営の問題で、パソコン事業を軌道に乗せることが先決だが、Widnowsパソコンだけに商品を絞り込む必要はない(関取氏)」と意欲を見せた。

コモディティ化が進み、生産規模重視の戦略で大手PCメーカーがしのぎを削る中、規模を追わないことを宣言するPCメーカーは希有だ。それもかつて明確な差異化を実現してきたエンジニアが、それらを担うとなれば、その行方に期待したいと感じる読者もいることだろう。

開発拠点と生産拠点が、日本国内に集約し、互いに素早くフィードバックをかけながら高い品質と細かな製品ディテールの追い込みを行う「安曇野フィニッシュ」が武器だというVAIO株式会社。厳しい船出は言うまでも無いことだが、他に例のないPCメーカーだけに”何をやってくれるのか”に期待する方も少なくないだろう。

まずは年内に登場が期待される新商品の発表を待ちたい。発表会にはインテル日本法人の副社長も顔を出したが、そのインテルは年末に向け、パソコンのバッテリ持続時間や大きさ、薄さを画期的に進歩させる新プロセッサIntel Core Mシリーズの出荷を予定している。この素材をVAIOがどのように料理するかに注目することにしよう。

本田 雅一 ITジャーナリスト

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ほんだ まさかず / Masakazu Honda

IT、モバイル、オーディオ&ビジュアル、コンテンツビジネス、ネットワークサービス、インターネットカルチャー。テクノロジーとインターネットで結ばれたデジタルライフスタイル、および関連する技術や企業、市場動向について、知識欲の湧く分野全般をカバーするコラムニスト。Impress Watchがサービスインした電子雑誌『MAGon』を通じ、「本田雅一のモバイル通信リターンズ」を創刊。著書に『iCloudとクラウドメディアの夜明け』(ソフトバンク)、『これからスマートフォンが起こすこと。』(東洋経済新報社)。

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