Aさんはその後、弁護士らの援助でセンターを抜け出し、センターと病院の職員・医師らを逮捕監禁罪などで刑事告訴。別途、民事訴訟でも損害賠償を求めて争っている。センターの運営会社は2019年末に破産した。病院への刑事告訴は正式に受理されて、現在捜査中だ。
Aさんの代理人の1人で、同センターのほかの被害者からも相談を受けている、代々木総合法律事務所の林治弁護士は、「被害者たちはみな、センターの職員から言うことを聞かないと精神科病院に入れられ、身体拘束もされると脅されていた。Aさんが身体拘束されておむつで排泄していたことはみな知っていた。精神科病院への入院が引き出し屋によって、いわば見せしめ的に使われている」と実情を語る。
内閣府によれば、ひきこもりの人数は15~39歳で54万1000人(2016年発表)、40~64歳は61万3000人(2019年発表)と推計されている。総数は100万人を超えるとみられている。ひきこもりが長期化・高齢化しているとも報告され、本人や支える家族の不安や悩みは大きい。
そうした悩みにつけこんで、「半年で自立させる」などと甘言を用いて、両親など家族から高額な費用を巻き上げる引き出し屋は、決してこのセンターだけではない。
病院が著名教授を提訴
こうした悪質業者の手先ともいえる役割を、結果的に精神科病院が果たしてしまっていることについて、当の病院側はどう考えているのか。
取材に対して、病院側は「本件は現在係争中であり、また守秘義務もありお答えできない」としている。
ちなみに病院は、民事訴訟の準備書面において、「原告(Aさん)はあたかも被告病院が研修センターと一蓮托生であるかのごとき主張をするが、まったく研修センターと被告病院とは関係はなく、連携等もおこなっていない」「研修センターへの誓約書記載の入所条件については、原告と研修センターとの問題であり、被告病院が積極的に関与したものではない」などと主張している。
なおこの病院は昨年、ひきこもり問題の第一人者で筑波大学教授の斎藤環医師を名誉棄損であるとして、300万円の損害賠償を求め提訴した。斎藤教授がAさんの刑事告訴と民事訴訟に関する報道を引用して、ツイッターでコメントしたことがその理由だ。
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