Aさんは看護師たちにおむつを履かされ甚平のような服を着せられた。手と胴がベッドに拘束されたことで、ほとんど身動きが取れなくなった。
この間、Aさんは身体的な抵抗はいっさいしなかった。「暴れたりしたら精神疾患だと受け取られかねないと、意識的に冷静に対応するよう努めた。それに実際9日間何も食べてないので、抵抗したり暴れたりする体力も気力もなかった」。
仰向けにベッドに固定され、寝返りを打つこともできないまま3日間過ごすことになった。なにより屈辱を感じたのは、トイレに行くことが許されず、おむつへの排泄を強要されたことだ。
「結局、大便も小便もおむつにするしかなかったが、おむつ交換の
回数は限られ、不快感が強く、衛生的にもどうかと思った。これを
看護師に交換されるというのも、とても屈辱的だった」(Aさん)
3日間の身体拘束が終わったのちも、Aさんは閉鎖病棟での日々が続いた。
2018年5月下旬、主治医から病名は発達障害の疑いだと告げられた。その診断理由を尋ねると、「あなたは今まで10年間教会のミサに通い続けていたよね。それは社会の一般通念からずれている。それが根拠です」と説明されたとAさんは話す(民事訴訟における準備書面で、病院側は説明内容を否定)。当然承服できないと反論したが、「それはあなたに病識がないからだ」と一蹴されたという。
翌月の6月に入ると退院調整が図られるようになったが、病院側は自立研修センターへの退院を強く求めた。退院時にはセンターの職員に連れて行ってもらうことになるが、もしこれを拒否したら、再度別の病院で入院になることが予想されると説明された。
Aさんは強く反発したが、結局、センターへの退院を了承した。閉鎖病棟での生活は50日間にわたった。
誓約書を強要
退院するや否や、Aさんはセンターから「誓約書」(写真)へのサインを強要された。
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② 実家に帰らない、家族に連絡を取らないこと
③ (センターの)カリキュラムは全参加すること
という内容だ。誓約書の文末には下記の一文があった。
「上記ルールを守れない場合は、再度入院する事に同意致します。」
少なくともセンター側が、身体拘束の恐怖や強制入院の理不尽といったAさんの心身に刻まれた精神科病院でのトラウマを、指示に従わせる「道具」として活用しようとしたことは明白だ。
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