仮にMMTが正しくても「特効薬にはならない」訳

積極財政による日本経済再生の可能性と限界

一方で、「消費税の凍結や引き下げを行うべきだ」という意見もよく耳にしますし、海外ではコロナ禍で実際に引き下げている国もあります。しかし、日本ではそれらの国ほどプラスの効果は期待できないと思います。

なぜなら、GDPに対する税負担率が低い国の場合、減税の経済に与えるプラス効果は当然小さくなるからです。例えば、フランスのようにGDPに対する税負担率が20%台の国と10%強の日本で同じ程度の減税を実施した場合、当然フランスのほうが経済に大きな好影響が出ます。

そもそも一般論として、減税は政府支出より、経済に与える効果が小さいとされています。政府支出を増やす場合、その金額すべてが消費に回ります。一方で減税の場合、すべてが消費に回るとは限りません。減税した金額の一部が貯蓄に回れば、その分だけ直接的な政府支出より経済に与える効果は小さくなります。

ですから、経済効果という観点では、政府支出の増加のほうが大きいと期待できます。実際、世界的にも、政府支出を増やす傾向が強くなっています。特に新型コロナウイルス蔓延の影響により、各国政府が予算を増やして、経済に注入されるお金が多くなっています。

欧州ではその動きが顕著で、大きな政策転換になると言われています。欧州の場合、ギリシャ、イタリア、スペインなどの国で、GDPに対する国の借金の比率の高さが問題視されてきました。特に、ギリシャは2010年に経済危機に陥り、ドイツを中心にEUから支援を受ける代わりに、財政の健全化が求められてきました。そのため、緊縮財政を取らざるをえなくなり、経済に大きなマイナスの影響が生じました。

世界中で金利がゼロに近い状態になっているので、コロナウイルスの蔓延をきっかけに、各国は雇用を守るなどの目的のため、国債発行によって政府支出を増やしています。

このような他国の動きを受けて、「日本政府ももっと財政支出を増やすべきだ」という意見も出てきているようです。これは当然の成り行きのように感じます。

政府支出と生産性、労働生産性の関係

しかし、これはあくまでもコロナ禍に対する緊急対策であり、日本経済を復活させる抜本策にはなりません。財政政策が1990年以降の日本経済の低迷のすべてを説明できる要因だとは考えにくいからです。政府支出さえ増やせば、総需要が戻って、生産性が上がり、日本経済は復活する。そんなことは夢物語にうつります。

積極財政が特効薬にならない理由を考えるうえで、1つ明確にしておかなくてはいけないポイントがあります。それは政府支出が生産性と労働生産性に与える影響の違いです。

政府支出を増やすと、一般的に仕事が増えます。企業はその仕事をこなすため、人を雇います。すると労働参加率が上がり、生産性も上がります(生産性=労働参加率×労働生産性)。重要なのは、政府支出を増やしても、必ずしも労働生産性が上がるとはかぎらないということです。次回、そのメカニズムを説明します。

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