日本は、アメリカのように大統領が変われば政府が変わるような国ではないし、政府内外の人材の流動性も低い。政策当局者と、民間の専門家との間のリボルビング・ドアも簡単には動かない。アメリカから見れば、日本の行政は継続性があって組織に蓄積された記憶(institutional memory)があるように見える。
にもかかわらず、政府や「霞が関」で危機に立ち向かうべき組織や人材は、政権交代や人事異動、退任によって、次々と変わっていってしまう。学びと備えが途切れてしまうのである。だからこそ、日本が国家的危機から学び次の危機に備えるためには、アメリカ以上に、単なる非難や批判では意味がない。ファクトとデータ、エビデンスに基づいて検証を実施し、危機から学ぶことは、日本においてこそ必要である。
民間・独立のシンクタンクだからこそ
ここに民間・独立のシンクタンクが果たしうる役割がある。政・官・民・学の多種多様な専門家で検証チームを立ち上げ、政策当事者と向き合って検証を実施し、学びを引き出し、次の危機への「備え」の構えを崩させないようにする役割である。
検証で必要なのは、直接の当事者の話をしっかり、丁寧に聞くことである。善玉・悪玉の構図を描くのではなく、当事者意識をもって、真実に迫っていく。できるだけ多くの多角的な事実に基づき、その「学び」を整理する。
危機管理の担当者は、その危機がどのような性質か理解しようと必死である。命を削り危機に立ち向かう。しかし危機はつねに形を変えるし、角度によってまったく違う見え方をする。官邸から、あるいは現場からは、そう見えていたのか。そうした気づきを当事者のみならず、広く一般市民に伝えるのも、シンクタンクによる検証の重要な役割のひとつである。
学ぶのは難しい。だからこそ、危機から学び、それを次の危機への備えとするためには、検証という営みが欠かせない。検証を行う側が、緊張感を持って真実に迫り、事実に即した緻密な作業を積み重ね政府との信頼関係を構築してこそ、学びと備えのフィードバック・ループは可能になる。しかしそれは、簡単に途切れやすい。検証は、危機の学びを途切れさせない「結び目」としての役割を果たす。さらにフィードバック・ループをつなげていくためには、検証を実施して10年後の再検証を原則とすべきであろう。
(相良 祥之/アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員、向山淳/アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員、柴田なるみ/アジア・パシフィック・イニシアティブ プログラム・オフィサー)
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